絵本・落語風土記 の商品レビュー
★はなしかをふと困らせるバカ笑い / 円生★ 亡くなった地井武男が6年間続けた人気番組『ちい散歩』で描いた絵手紙483枚も心温まる味のあるものでしたが、落語に縁のある東京各地を訪れて落語にまつわる土地の過去と現在を綴る江國滋のこの全54話の絵随筆の54枚の挿絵も、それこそ名人...
★はなしかをふと困らせるバカ笑い / 円生★ 亡くなった地井武男が6年間続けた人気番組『ちい散歩』で描いた絵手紙483枚も心温まる味のあるものでしたが、落語に縁のある東京各地を訪れて落語にまつわる土地の過去と現在を綴る江國滋のこの全54話の絵随筆の54枚の挿絵も、それこそ名人芸といえる見事なものでとても落語ファンだけに独占させておくには惜しいイラストエッセイ集です。 いまでは彼の死後7年後に直木三十五賞を得て作品の多くが映画化されている娘の江國香織の方がはるかに有名になってしまいましたが、私にとっては江國といえば滋、俳句について手とり足とり酸いも甘いも全身全霊をかけて教わったのが彼でした。 私の俳句は、中学生のころ教科書から抜け出た水原秋桜子や山口誓子や高浜虚子らによって形作られ、そのうち正岡子規と寺山修司に強引にアクロバティックに引っ張られて、やがて自らに一日50句作ることを課したり、おじさん達に対抗して鰻と俳句のどちらが目的かわからない「京都うなぎ句会」なる女三人の句会などをかしましく開催したりと、そのころ若者にあるまじき行動を起こしていたのでした。 そのとき、頭の先からつま先までどっぷり浸かっていたのが江國滋の俳句の本でした。 『俳句と遊ぶ法』(1984年)というのどかな田舎の風景を描いた安野光雅の表紙の本を繰り返し読んだものです。不義理・恩知らずの弟子ですが、私の俳句の押しかけ直伝のお師匠さんは江國滋だったのでした。 そのあと『旅はプリズム』『江國滋 俳句館』『スペイン絵日記』『旅ゆけば俳句』『きまぐれ歳時記』『伯林感傷旅行』『微苦笑俳句コレクション』『慶弔俳句日録』『英国こんなとき旅日記』『スイス吟行』『イタリアよいとこ』、そして絶筆『癌め』と『おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒 江國滋闘病日記』と、俳句の本は歳時記以外は江國滋の著作しか読まなかったかもしれません。 いまから思えば、ざっと目次を見るだけでも、その俳句にかける情熱というか、どうすればズブの素人でも究極の俳句をたしなむ人になれるかを手際よく実践的に教えようとしたかがよくわかる、目配りの利いた優れたすばらしい本でした。
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