リベラル・コミュニタリアン論争 の商品レビュー
ロールズ理論を他の政治理論と比較しながら理解するに有用な1冊です。 本書はまず序論で、ロールズが『正義論』で仮定した「原初状態」に含まれる5つの実質的論点(人格の構想、非社会的個人主義、普遍主義、主観/客観主義、反完成主義)が導出され、第Ⅰ部では4人のコミュニタリアン(サンデル...
ロールズ理論を他の政治理論と比較しながら理解するに有用な1冊です。 本書はまず序論で、ロールズが『正義論』で仮定した「原初状態」に含まれる5つの実質的論点(人格の構想、非社会的個人主義、普遍主義、主観/客観主義、反完成主義)が導出され、第Ⅰ部では4人のコミュニタリアン(サンデル、マッキンタイア、テイラー、ウォルツァー)によるロールズ批判がこれらの論点に沿う形で紹介されていきます。 第Ⅱ部では、ロールズが自身の正義理論は政治的構想であることを強調した『政治的リベラリズム』が参照されることで、コミュニタリアンの批判に対しての彼の立場からの反論が著者によって構成され、さらには彼の理論の限界が示されていきます。 最後に第Ⅲ部では、ロールズとは異なるアプローチをとる3人のリベラリスト(ローティ、ドゥオーキン、ラズ)が紹介され、本書を終えます。 本書において特に興味深かったのは、『政治的リベラリズム』が参照される第Ⅱ部です。 後期ロールズでは、人々が抱く善の構想の「理性にかなった多元性」が前提となり、正義の政治的構想は「公共的な正当化可能性」に適う必要があるとされ、その正当化の源泉はリベラルな国家の「公共的政治文化」に求められます。 本書は、著者が「幸運の一致」と表現するように、この過程において「自由と平等」の尊重という実質的主張が二重の役割を果たしていることを明らかにしていきます。まず、リベラルな政治的正義に「公共的な正当化可能性」が追及されるのは、政治権力が「自由で平等」な市民によって共同に保持される必要があるためです。一方で、この正当化の追求は「公共的政治文化」によって導かれなければなりませんが、この文化に内在する主張こそが「自由と平等」の尊重です。この2つの主張の結びつきに必然性はなく、ロールズは特定の善の構想に依拠せずに政治的正義を導出することを意図しているため、この2つの偶然の一致によって初めて彼の理論は矛盾なく論理づけられると著者は論じています。 また、この「自由と平等」の尊重、特に「自ら善の構想を形成し、修正し、追及する選択の自由」に最高次に関心が向けられている点は、コミュニタリアンとの相似が指摘されるロールズをリベラルな価値にコミットさせている意味でも重要と言えます。 本書は450P近くに及ぶ大部ではありますが、序章、第Ⅰ部のサンデルの章、第Ⅱ部だけでも十分読む価値があると思います。(実際自分も第Ⅲ部は流し読みに近く、ドゥオーキンの章は手つかずです。) また、議論が整理されていて使い勝手も良いと思うので、これから政治理論を学ぶ方や政治理論に興味の無い方にもおすすめできる一冊です。
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