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蝉しぐれ の商品レビュー

4.4

378件のお客様レビュー

  1. 5つ

    193

  2. 4つ

    117

  3. 3つ

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2019/10/21

高校の現代文の教科書に掲載されていた。それは冒頭の印象深い「朝の蛇」の章だったと思うが、それでその後おそらく高校生の間に一度読んだ。 それ以来なので少なくとも10年は経ってからの再読だと思う。 しかし、面白かった。この小説は、解説にもあったが、時代小説という括りを設けてしまうのが...

高校の現代文の教科書に掲載されていた。それは冒頭の印象深い「朝の蛇」の章だったと思うが、それでその後おそらく高校生の間に一度読んだ。 それ以来なので少なくとも10年は経ってからの再読だと思う。 しかし、面白かった。この小説は、解説にもあったが、時代小説という括りを設けてしまうのがもったいないほどの面白さである。本書の優れていることは別に私一人が再発見したことでも何でもなく、周知の事実と思われるが、あえて、その内容を挙げると、次のようになる。 ・恋愛の要素もあるし、友情の物語ともとれるし、剣術での闘いの物語ともとれる。もちろん、それらを総合して、江戸の時代も今も変わらない、ままならない人生の中でひたむきに生きるしかない人間の様を描いているということなのだけど、それぞれの要素が適度に盛り込まれている。人生にある様々の要素を、うまくこの一冊の中に含めている感じがある。時代小説で、短編がうまいなあと思う作家は、もちろん山本周五郎とか乙川優三郎とか他にもいると思うが、長編でここまで物語を読ませる作品は他にないと思う。 ・恋愛と友情の物語、までは何となく他にもあるように感じるが、藤沢作品にはいつも(私は他に3、4冊程度しか読んでいないにわかファンだが)、「秘剣」が登場し、つまり、剣士同士の死闘の描写が面白いし、それなりに比重を占めているのである。だから、陳腐な表現かもしれないが、バトルもののようにも読むことができる。 ・確かに時代小説は、以前別の感想でも書いたが、お約束や一定のパターンのようなものを感じることもあるし、現代に生きる我々とはそもそも社会の仕組み自体が違うのだから、登場人物たちの苦悩もある程度様式化されたようにお定まりの感動しか呼ばないのではないか、という向きもあるかもしれない。しかし本書で主人公たちに寄り添い、共に悲しんだり心が揺れ動いたりした後、不思議と現実世界での生きづらさにも立ち向かえるような心持ちに自然となれているように思う。 それに現代社会で苦悩を感じる場面は、過去の時代と比べて、それほど複雑なのだろうか。私はむしろ、現実に感じているような人生の難しさは、まさに今体験しているものであって、わざわざ小説でそれをトレースするのも億劫に思う。 ・閑話休題、他に本書について書き忘れてはならないのは、自然や町の風景の描写の力である。  武家や町人が住む町の様子を描くときも、その町の周囲の鄙びた村々の描写の際にも、面白いなと思ったのは、「時」を効果的に盛り込んでいるところ。早朝なのか、今まさに日が暮れようとしているのか。さらに、季節は盛夏なのか、雪が降り出しそうな空模様なのか。舞台となっているのがおそらく山形の藩なので、私の故郷も雪国だからそうだが、四季の移り変わりがはっきりしている。四季と、1日における時間帯の区別、それに主人公文四郎の内面とを、絶妙に風景描写に取り込んでいて、しかも使い回しの印象もなく、どの場面も都度新鮮に読んだ。というより、筋書きだけを初読のとき以後覚えていたのが、再読してみると気がついた。 ・そのように隔絶した描写力と、人物の登場のさせ方、物語の構成も隙がないし、全く飽きることがない。ぜひ、10年後、20年後にもまた読み返したい、自分にとっての名作中の名作と言える、他に替えがたい作品である。

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2019/09/25

文四郎の青春。 痛み、安楽、怒り、恋心、喜びや虚無、様々な心の機微を通して“助左衛門”となるまでの少年〜青年期を、流れるように紡いでいく。 その間の妻や子供たちとの生活の子細はない、だからこそ本書は青春時代小説なんだと思う。あくまで文四郎視点のの。 物語内で常に心を打ってくる日本...

文四郎の青春。 痛み、安楽、怒り、恋心、喜びや虚無、様々な心の機微を通して“助左衛門”となるまでの少年〜青年期を、流れるように紡いでいく。 その間の妻や子供たちとの生活の子細はない、だからこそ本書は青春時代小説なんだと思う。あくまで文四郎視点のの。 物語内で常に心を打ってくる日本の原風景、そこに抱く郷愁と共に、最後は文四郎の長い青春の終わりを見届けて、深い余韻を残しつつ本を閉じた。

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2019/09/10

生まれた時から身分が決定しており、恋愛すら自分の意思で決められない時代。 主人公は時代に流されながらも、自分が今できる努力を重ね成長をしていく。あらすじだけなら、想像の範囲内であるが時代背景やそれぞれが抱く感情を丁寧な描写し、読み応えのある一冊になっています。時代物が苦手な方もぜ...

生まれた時から身分が決定しており、恋愛すら自分の意思で決められない時代。 主人公は時代に流されながらも、自分が今できる努力を重ね成長をしていく。あらすじだけなら、想像の範囲内であるが時代背景やそれぞれが抱く感情を丁寧な描写し、読み応えのある一冊になっています。時代物が苦手な方もぜひ一度読んでみて下さい。

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2019/09/04

最初の場面が夏で、文四郎とおふくとの出会いがみずみずしく描かれていて、時代小説とはいえ青春小説のようなさわやかさのある作品で、魅力的な作品です。(yori)

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2019/05/31

12.7.16 進化論 ■セミといえば。  【今日のお勧め本 蝉しぐれ】   http://amazon.co.jp/o/ASIN/416719225X/2ndstagejp-22/ref=nosim  ※藤沢周平作品を読んだことがない人には、   ぜひこれを読んで欲し...

12.7.16 進化論 ■セミといえば。  【今日のお勧め本 蝉しぐれ】   http://amazon.co.jp/o/ASIN/416719225X/2ndstagejp-22/ref=nosim  ※藤沢周平作品を読んだことがない人には、   ぜひこれを読んで欲しいもの。個人的にはベストです。

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2019/04/30

ドラマティックな展開が続き、久々に夢中になって読み進めた一冊。 恋、謎、陰謀と事件、成功譚、秘蔵の奥義とか、様々なハマれるポイントが押さえられていて素直に面白かった! ブクログ内の感想を見ていると、妻の扱いに対してモヤつくという意見も散見されて、そこは私もやはり気にはなったも...

ドラマティックな展開が続き、久々に夢中になって読み進めた一冊。 恋、謎、陰謀と事件、成功譚、秘蔵の奥義とか、様々なハマれるポイントが押さえられていて素直に面白かった! ブクログ内の感想を見ていると、妻の扱いに対してモヤつくという意見も散見されて、そこは私もやはり気にはなったものの、「家」を守ることを第一としている時代、それはそれ、これはこれとハッキリ分けているのも理解できなくはないかな、と思った。 この小説の連載時期的にも、家父長制が優位の時代だったろうし。 そこに着目しちゃうと思い切りこだわりそうだったので、敢えてのスルーを推奨します。 ともあれ、そういったところに違和感を持つ人が多くなったのは、いい時代になったなぁと作品に関係のないところでそんな感想も持ったり。

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2019/02/23

著者:藤沢周平(1927-1997、鶴岡市、小説家) 解説:秋山駿(1930-2013、東京都、文芸評論家)

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2023/09/30

藤沢周平『蟬しぐれ』文春文庫 読了。友情の絆、藩内の政争、儚く切ない恋。少年藩士がじわりと成長する姿を描く青春系時代小説。不遇な運命に翻弄されながらも、健気に逞しく苦難を乗り越えてゆく。努力を惜しまず励めば道は拓ける。悠然としながらテンポの良い展開が長編であることを感じさせない。...

藤沢周平『蟬しぐれ』文春文庫 読了。友情の絆、藩内の政争、儚く切ない恋。少年藩士がじわりと成長する姿を描く青春系時代小説。不遇な運命に翻弄されながらも、健気に逞しく苦難を乗り越えてゆく。努力を惜しまず励めば道は拓ける。悠然としながらテンポの良い展開が長編であることを感じさせない。 2017/05/11

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2018/07/16

読みはじめて、「これ、いつか読んだな」と気づいた。けど、記憶があやふやだったので読み進めたらやめられなくなった。日本語の美しさ、いや、表現された景色が美しいのか。表現がしつこくなく、すぅっと流れて行くけど味わい深い。展開は激しいのに、何故か清々しい。多くの人に支持されるのは当然だ...

読みはじめて、「これ、いつか読んだな」と気づいた。けど、記憶があやふやだったので読み進めたらやめられなくなった。日本語の美しさ、いや、表現された景色が美しいのか。表現がしつこくなく、すぅっと流れて行くけど味わい深い。展開は激しいのに、何故か清々しい。多くの人に支持されるのは当然だと思います。再読できて幸せでした。

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2018/05/11

江戸時代の下級武士の若者、牧文四郎を主人公とする時代小説。剣と恋と友情がバランスよく描かれた青春小説とも言えようか。時代の風景、地方の藩の風景が美しく描写され、そこで暮らす若者たちが屈折することなく成長していく姿が好ましい。恋心を抱いた文四郎の隣家の娘おふくが藩主の側女になり、大...

江戸時代の下級武士の若者、牧文四郎を主人公とする時代小説。剣と恋と友情がバランスよく描かれた青春小説とも言えようか。時代の風景、地方の藩の風景が美しく描写され、そこで暮らす若者たちが屈折することなく成長していく姿が好ましい。恋心を抱いた文四郎の隣家の娘おふくが藩主の側女になり、大きな政変に巻き込まれるあたりハラハラさせる。武士道をまっすぐ描いた小説だ。

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