山の音 の商品レビュー
図書館から拝借。 川端康成の傑作長編であり、戦後の日本文学の最高峰に位置する作品。 一章一章が短篇の系を成している様で、とても読み易かった。 物語は始終、老齢故の裏淋しさ、物悲しさが背景に漂う。そんな中で『家』『家族』の有様が、川端の美文で綴られていく。 行間に流れる叙情が何とも...
図書館から拝借。 川端康成の傑作長編であり、戦後の日本文学の最高峰に位置する作品。 一章一章が短篇の系を成している様で、とても読み易かった。 物語は始終、老齢故の裏淋しさ、物悲しさが背景に漂う。そんな中で『家』『家族』の有様が、川端の美文で綴られていく。 行間に流れる叙情が何とも言えない。また、登場人物それぞれの心模様が丁寧に表現されていて、一人一人の感情が染み入って来る。 川端作品はあまり数は読んでいないが、表現の巧みさをじっくり味わえた作品だった。
Posted by
そこはかとなく漂う老いと死の予感を、行間から立ち昇らせる文章。「悲しい」ものをただ「悲しい」と書かれても「ああそうですか」となり、野暮ったくて仕方ないですし、過剰に難解であったり、くどくど書かれても想像を働かせる余地がなくなって困ります。 その点、簡素な文で、心情や情景を掬い...
そこはかとなく漂う老いと死の予感を、行間から立ち昇らせる文章。「悲しい」ものをただ「悲しい」と書かれても「ああそうですか」となり、野暮ったくて仕方ないですし、過剰に難解であったり、くどくど書かれても想像を働かせる余地がなくなって困ります。 その点、簡素な文で、心情や情景を掬い上げる著者の筆運びは、到底凡人になしえる芸当ではなく、閑寂の境地すら窺わせます。 終戦直後の昭和20年代後半の鎌倉。深夜ふと響いてくる「山の音」を死の予告と恐れながら、尾形信吾(62)の胸には昔憧れた人の美しいイメージが消えない。同居している息子の嫁・菊子の可憐な姿に若々しい恋心を揺さぶられ…。 どこにでもありそうな、家庭の風景。劇的な展開が主題をなしているわけではありませんが、忍び来る死への恐怖や、嫁・菊子への、道ならぬ恋慕が、それとは言わずに描出されています。老妻・保子や、愛人と不倫する奔放な息子・修一、若く美しい嫁の菊子、夫のもとから出戻った娘・房子たちが抱えるもの悲しさも、言葉の端々や、ちょっとした動作から、陰翳ぶかく捉え、読者に得も言われぬ感情を喚起させます。
Posted by
鎌倉に暮らす尾形信吾は、同居している息子の修一が外に女を作っているのに頭を悩ませる。そこに修一の姉・房子が子供を連れて戻ってくる。かつて妻の姉に憧れていた記憶が残る信吾は、息子の嫁・菊子と親しく接するうちに、異性への欲望が少しずつよみがえってくる。 いかにも私小説的な、日々の些...
鎌倉に暮らす尾形信吾は、同居している息子の修一が外に女を作っているのに頭を悩ませる。そこに修一の姉・房子が子供を連れて戻ってくる。かつて妻の姉に憧れていた記憶が残る信吾は、息子の嫁・菊子と親しく接するうちに、異性への欲望が少しずつよみがえってくる。 いかにも私小説的な、日々の些事を書きつらねていく川端康成らしい作品。物語が大きく動くことは少ないので淡々としているが、ほぼ一文ごとに改行しているのでテンポよく読み進めることはできた。
Posted by
後ちょっとで著作権フリーになるところだったけど、法改正で青空文庫化が大きく遅れ、読まずに待っていた三島、川端、内田百閒と言ったところを今更に入手、少しずつ読んでます。 三島由紀夫も川端康成も文章が美しく染みますが、特に誰かが殺される訳ではありません笑、戦後の時代の家族間の心情が細...
後ちょっとで著作権フリーになるところだったけど、法改正で青空文庫化が大きく遅れ、読まずに待っていた三島、川端、内田百閒と言ったところを今更に入手、少しずつ読んでます。 三島由紀夫も川端康成も文章が美しく染みますが、特に誰かが殺される訳ではありません笑、戦後の時代の家族間の心情が細やかに伝わる物語です。 国語の試験問題をたくさん作れそうなポイントがあって色々と考えさせられる。もちろん自分では気づけるわけはないのだけど、既にあちこちで公開されているので、考察を知るのも楽しいです。 繰り返し読み味わう愉しさを教えてくれる作品ということだと思う。
Posted by
大した出来事は起こらないのにずっと読めてしまう文章。情景が頭の中で細部まで再現される。川端康成は天才だな。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
【注意・川端の無垢幻想に半ば共感するアラフォー男性による、暴言も込みの、ただの感想です】 全16章で、章の中は4,5分割されている。 この佇まいは、綺麗。 解説で山本健吉が、雑誌システムに依存しながら書かざるを得なかった長編、と寄せており、その成立過程も込みで味わえた。 ・連載は1949年から1954年にかけてだが、舞台は1949年から1950年にかけてなので、2022年現在から見ると、ほぼ70年前の小説。しかも視点人物は62歳くらい。当時1899年生まれの川端が、10歳くらい年上を想定して描いたので、1890年くらいの生まれの人物に寄り添う小説なのだ。 ・一言でいえば、岩明均「ヒストリエ」のキーワード「文化がちが~う!」を前提に読まなければならない小説ということ。 ・第2次世界大戦……、水木しげるは戦地に行ったが手塚治虫は行かなかった、三島由紀夫や中井英夫や澁澤龍彦は青年だった、宮崎駿や富野由悠季はほんの少年だった、そんな時期に、作中最も「ダメ」な息子の修一は、水木しげると同じく戦地に行き、父に殺したかと問われて、自分が撃った弾が当たっていたら敵は死んだでしょうという……トラウマゆえメカケへのサディズム? ・戦争未亡人の存在。戦地から帰って、父の会社に寄生しつつ、戦争未亡人にサディスティックな性を強要しながらも、妻を唯一の相手としない、刹那主義? 正直いって修一ダメやん、と思うが、当時の読者の感じ方はまた違ったのかもしれない。 ・さらにいえば当時の読者といっても老若男女あるので、受けとり方は一様ではなかったろう。 ・と、息子にまずフォーカスを当ててしまったが、もちろん主眼は1890年くらいに生まれた、当時62歳の、引退直前の老人。 ・今風にわざと露悪的にいえば、ジジイが想像する夢ハーレム小説(ラノベ風タイトル案「息子の処女嫁が同居することになったけど彼女えげつないフケセンでした、どうしましょう!」)。処女信仰のある世代だし、作者自身の無垢幻想を代理する視点人物でありながら、息子とセックスしてヨガっている矯正が聞こえてくるひとつ屋根の下にあるにもかかわらず、義娘の純潔を(あり得ないことながら)夢見ていたら、妊娠、その上自ら堕胎手術し、それでも義父たる自分へ擦り寄ってくる……こんな「苦しいハーレム」って、あり? ・いわば、純潔にしか思えない処女ビッチ風のアイドルが隣室で毎晩嬌声を上げるその声で自分を慕ってデレてくるのを庇っていたのにも関わらず「公式」から当社所属アイドルがファンとの不適切なつながりを持っていたので解雇しましたと公式HPに発表されたというのに、そのアイドルがあなただけ愛したいのに状況がそれを許さないんですと媚びてくるような状況に置かれたら、彼女が頬を赤らめるだけで(菊子頬赤らめすぎ問題!)落ちてしまうファンジジイに、自分を共感させながら読まなければならない小説なのだ……やっぱり、文化が違う! ・新聞への言及が多いので、新聞連載かしらんと思ったが、雑誌連載だった。義理の娘が毎朝寝床に新聞を届けてくれたり、それを待てず自ら取りに行ったりする辺り、なんだかリアルだなと読んで感じた。邪推するに、川端自身が養女に迎えた政子との生活感覚を描いたのではないか。 ・新聞言及だけでなく時事ネタが多いなと感じた。年齢の数え方が満年齢から数えへ変わったとか、電気剃刀という新しい文明の利器、とか、電気冷蔵庫とか。もっと踏み込んで筋と関わる時事ネタといえば、戦後施行された、優生保護法による堕胎オッケーという法律。太宰治と村上春樹の断絶がこの法律にあると、斎藤美奈子や石原千秋が言っていた気がするが、その前身的作品だと感じた。 ・堕胎について、登場人物全員が、時差なく把握するあたり、ご都合主義だなと感じた。劇的に考えれば姑あたりがえげつない行動を起こしそうなものだが、そういう想像すら、ポストモダン世代が行うマンガチックな妄想と言われるかもしれない。 ・信吾、よく夢を見る……これって、不眠症だった川端の生理に根ざしたものかもしれない、と思った。川端の自死、解釈は様々にあろうが、不眠は一要因かもしれない。 ・信吾が、ネクタイの結び方を忘れた、という終盤の挿話が、印象的。40年毎朝行ってきたことができなくなるって、恐怖。しかしこの場でただひとりで驚くのではなく、息子の嫁や自分の妻に構ってもらった挙句(にもかかわらず)、すでに死んだ妻の姉がネクタイを結んでくれた記憶を、大事に大事に思い出すあたり、……ただの老いでは、ない。ひたすら美的なものを美しいと言い、身内ですら器量が醜いものは醜いとしか思えない、いまふうにいえばサイコパスな気質が、作者にはあったのだろう。 ・凡人に言わせれば、鬼畜! でもそれが面白い!!
Posted by
個人的康成ナンバーワン。 過度な描写を省きに省いたミニマルの極地。 風景・心理・説明できない情緒が流れまくる。作者がよく使う短く区切った掌編名も良い。 根底にあるのは男尊女卑だが、ただ作品の持つ良さのみを評価したい。
Posted by
菊子がとても魅力的に描写されていた。全体的には結局何を言いたいのか分からない部分もあったが、これが純文学なのだろう。
Posted by
学生時代読んだ時には思わなかったけれど、今回再読して、老いてもなお失われない男の業を、全編通じて感じた。 信吾が、自分を妊娠させてくる心配もない、言ってしまえば戦力外なお年寄りということもあって、菊子は気楽に懐いているように思われる(そもそも夫の父だし)。 しかし、信吾は菊子に新...
学生時代読んだ時には思わなかったけれど、今回再読して、老いてもなお失われない男の業を、全編通じて感じた。 信吾が、自分を妊娠させてくる心配もない、言ってしまえば戦力外なお年寄りということもあって、菊子は気楽に懐いているように思われる(そもそも夫の父だし)。 しかし、信吾は菊子に新宿御苑に待ち合わせに誘われて、カップルが多いのにどぎまぎしてしまう。いまだに女の美醜にめちゃくちゃ言及するし、若い娘の夢も見る。 あちこちから死の音が聞こえてきてもなお、男にはいつまでも現役の意識があるものなのかなあと思う。それとも、高校生くらいの、女子のことばかり考えていた頃に、老いて感覚が戻っていくのか。 戦後の日本の家の窮屈な暗さの中で、それは良くも悪くも、男の支えだったのだろう。
Posted by
戦後の家族像。 老いを感じ始めた真吾の背徳的な愛情が、淡々とだけれどじょうずに描かれている。妻保子の姉への郷愁や息子の嫁菊子への仄かな想いは、誰しも少なからず持ち合わせているような小さな秘密の感情。 息子修一の少し身勝手なところや、姉房子のうらぶれたところ。破綻した夫婦関係のなか...
戦後の家族像。 老いを感じ始めた真吾の背徳的な愛情が、淡々とだけれどじょうずに描かれている。妻保子の姉への郷愁や息子の嫁菊子への仄かな想いは、誰しも少なからず持ち合わせているような小さな秘密の感情。 息子修一の少し身勝手なところや、姉房子のうらぶれたところ。破綻した夫婦関係のなかで、それでも家族に囲まれ家族を求めて生きているようだ。 真吾の妻保子の、でしゃばりすぎず、それでも我慢の中で愚痴をこぼしたりする様はとても日本っぽいなぁと感じた。 再読必至本。
Posted by