美しき日本の残像 の商品レビュー
日本の道路計画を連歌に例えている (p.61) のが言いえて妙。そして、連歌で有名な歌が多数知られているとは、私は知らない (無知なだけかもしれないが)。 一方で日本の国民感情に「恥」だけではなく「劣等感」というのも大きなウエイトを占めているのではないかと感じた。貴族への劣等感、...
日本の道路計画を連歌に例えている (p.61) のが言いえて妙。そして、連歌で有名な歌が多数知られているとは、私は知らない (無知なだけかもしれないが)。 一方で日本の国民感情に「恥」だけではなく「劣等感」というのも大きなウエイトを占めているのではないかと感じた。貴族への劣等感、西欧諸国への劣等感、東京への劣等感...。唯一四季がある等々のイデオロギーを強調しておきながら、静かながらも強固な劣等感が自己 (太古からの美意識、文化の) 否定を生み出しているのではないか。同様に、繊細な古い古い美意識を解す教養が無いばかりに、書などの「その意味がわからないと不安で、〔読めるはずと思っている字なのに〕読めない自分が恥ずかしい」(p.123) という劣等感が、判りやすいところ (コンクリートブロックとアルミサッシ、蛍光灯など) に収斂してしまっているのではないだろうか。判りやすいということが、理解不要 (考えなくて済ん) で楽であるというのも、また確かと言えるし。
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著者のプロフィルを見ると、いったいどんな人かと驚く。 1960年代の少年時代に、米軍付きの弁護士であった父に従い、横浜で2年過ごす。 イェール大学で日本学を学び、その後オックスフォード大学の奨学金で中国学を学ぶ。 日本の大本教関連の団体に就職し、古美術を紹介する活動を行う傍ら、四...
著者のプロフィルを見ると、いったいどんな人かと驚く。 1960年代の少年時代に、米軍付きの弁護士であった父に従い、横浜で2年過ごす。 イェール大学で日本学を学び、その後オックスフォード大学の奨学金で中国学を学ぶ。 日本の大本教関連の団体に就職し、古美術を紹介する活動を行う傍ら、四国祖谷の茅葺古民家の再生活動をする。 古美術のディーラーとして活躍する中で出会ったアメリカの不動産会社の経営者に見込まれ、転職。 バブル期の日本での土地開発にも通訳などとしてかかわったようだ。 その傍ら、再び亀山の古民家を再生し、そこで書家として、文人のような生活をしている… 自分でまとめていても、これが一人の人の経歴なのか?と疑ってしまうほどの幅がある。 本書のもとになった雑誌連載は1990年ごろ。 単行本化は1993年、文庫化は2000年。 そこからさらに20年余が経ってしまったことになる。 本書には随所に、日本の美しさが損なわれていくことへの哀惜が語られている。 日本人には美しい自然があると刷り込まれていて、山がコンクリートに覆われたり鉄塔が林立しているのをみようとしていないという批判は耳が痛い。 本書のあとの「失われた20年」で開発は止まったか、自然破壊は止まったかというとそうでもないから。 むしろ高度成長期に建てられた建物や看板が朽ちるままになって、さらに醜さが増している気がする。 この人の文体は不思議で、一つのトピックに対してほめたかと思ったら、次の段落では批判する。 あるいはその逆。 非常にゆらゆらとしていて、ある意味とらえどころがない。 日本人あるいは日本文化が「子供」のようだという見方もそんな感じ。 本書では日本美術の無邪気さ、自由さを称揚するキーワードでもあったりする。 が、一方で中国文化と比較し、「子供」であるともいう。 自分にとっても、ちょっとわかる気がするが、現代によみがえった中華思想(伝統的な考え方では中国文化を日本流にアレンジしてしまうことはとんでもない野蛮なことだったろう)ではないかと思えてくる。 これにマッカーサーの「日本は12歳の少年」という言葉をかぶせていくので、ちょっと帝国主義的な視線も感じられなくもない。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
あなたは知らないのでしょう。畳の清潔さ、細枝から垣間見る岩 肌、タヒチのような豊かな雨林、それも日本の美しさということを。 けれど、あなたは知っています。京都や奈良の古い町を見て美しい と感嘆はしても、その心の中では自分たちの現代の生活とは関係が ないことを。いまは日本人が得意な辛抱のとき。私も同じです。ひ と呼吸の時期でもあります。この本は、日本人が自分の足元と周り を見直し、本質への視点をつくるフィルターとなるでしょう。 引用1:葉山の別荘で初めて見た畳は美しく清潔で、部屋は明るく、二階の窓からは遠く富士山を眺めることができて、僕はまるで雲の上に浮かんでいるような気分になりました。 引用2:谷間からは霧がまるでマジックのように湧き上がり、日本独特のデリケートな気の細枝は風に吹かれて羽根のようにふるえ、その合間に岩肌が見え隠れしていました。 引用3:タヒチにあるような火山性の山と、豊かな「雨林」のために、日本は多分、世界で最も美しい国であったと思います。その自然がもう過去のものになりつつあります。 引用4:日本人は京都や奈良の古い町を見て、「美しい」と感嘆はしても、その心の中では、自分たちの現代の生活とは関係がないことを知っています。 引用5:でも「お城に住みたい」という夢は山のお城から芝居のお城へと変わりました。 引用6:言い換えれば、オックスフォードの文明の目盛りは数百年が単位であるということなのでしょう。 引用7:一方、日本人はつまらなさに不満を感じないように教育されていますので、きっと幸せかもしれません。 引用8:北京市民は文化大革命でずいぶん被害を受けましたが、北京市民は北京を愛しています。でも、京都市民は京都は「東京」ではないという事実に耐えられません。 引用9:大阪弁が醸し出す「人間らしさ」は偶然ではないと思います。京都に負けない長い歴史の結果によって成熟した人間らしさです。しかも京都は「病気」なのに、大阪は健康的な町です。 引用10:昔の美が消えていくことは避けられないでしょう。それにしても僕は幸せだったと思います。美しい日本の最後の光を見ることができました。 再読でしたが、いろいろな気付きがありました。徳島の山の中にある古民家改修の印象が強かったのですが、その要素をあえて外して引用してみると、日本の美しさはどこにあり、どのようにすれば感じることができるのか、もしくはできたのか、が語られている本として全く違った読み方ができました。目次の情報が少なかったので、今回あえて英語訳として後に出ている「LOST JAPAN」を購入して並行して読んでみました。併読の効果として、タイトルや目次の構成が単純化され、本の構成がわかりやすくなりました。美しい日本の最後の光を感じることのできる「城」となった古民家や伝統芸能に対する気づきや解説と共に、その背景にある大学、職場、関西の都市が、厳しい批判や皮肉と共に記されています。アレックス・カーを通じて追体験した「美しい日本の残像」から、この自粛連休に失った旅行体験の代わりになるような新たな価値を得ることができた良い読書体験となりました。
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日本に魅せられ日本に長く住む、アメリカ人のアレックス・カー氏が、日本の無秩序な開発を嘆く本。特に、電線やパチンコ屋やコンクリートやネオン看板が景観を損なうのが我慢できないらしい。 最後の章がよかった。彼は日本や中国の歴史、文化、芸術、建築などを研究し、深い精神の部分まで日本人以上...
日本に魅せられ日本に長く住む、アメリカ人のアレックス・カー氏が、日本の無秩序な開発を嘆く本。特に、電線やパチンコ屋やコンクリートやネオン看板が景観を損なうのが我慢できないらしい。 最後の章がよかった。彼は日本や中国の歴史、文化、芸術、建築などを研究し、深い精神の部分まで日本人以上に理解している。この本は翻訳ではなく、日本語で書かれたのだ。本書で初めて知ったこともたくさんあった。 彼は1970年代の留学生時代に、四国の山奥の茅葺屋根の家に魅了される。空き家を買い、茅葺屋根を自分で修繕しつつ住んだり、京都の神社の一角を借りて住んだり、歌舞伎役者に入れ込んだり、なかなか面白い経験をしている。 日本の美というのは、自然との調和がなければ成り立たないと考えているようで、作られた庭や生け花の不自然さより、あるがままの姿を信奉している。 彼の交友関係もすごい。白洲正子さんや、アウンサン・スーチーさん、玉三郎、最後の対談は司馬遼太郎とだ。本を通して、日本はもう終わってる、とあり残念な気持ちになるが、読んでみたかった本なので機会があってよかった。
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日本人が(忘れてしまったわけではなく)気に留めないような外の人の目線が祖谷を美しく彩る。読めばリアルを欲する良書。
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Dear AREX, 著書、拝読しました。 あなたが日本で古民家、古美術、歌舞伎など、自分が「美しい」と感じたものや、そしてその元となっている日本の自然について、まるで“MY FAVORITE THINGS”を歌うように1つ1つ調度品にように丁寧に1冊の本に並べられていたため、「...
Dear AREX, 著書、拝読しました。 あなたが日本で古民家、古美術、歌舞伎など、自分が「美しい」と感じたものや、そしてその元となっている日本の自然について、まるで“MY FAVORITE THINGS”を歌うように1つ1つ調度品にように丁寧に1冊の本に並べられていたため、「次は何が出てくるのかな」と最後までわくわくしながら読めました。 日本の美に対するあなたのユニークな考え方が、時には「外国人だから」といって特殊扱いされるのは、残念でなりません。でも全く問題ではありません。あなたがもう少し長く日本に滞在していれば、あなたの独特な視点やこだわりは「オタク」のパイオニアとして高く評価されていたでしょう。 また、あなたを「ちょっと変わったアメリカ人」と言うのも、違うなと思います。そういう人はMLBでのプレーにこだわる日本人野球選手を「ちょっと変わった日本人」と呼ぶのでしょうか? 自分の生まれた国以外の文化に魅了され、それをライフスタイルとして貫き通すことを、そんな素敵な対象を見つけられてうらやましいとは思っても、変だとは少しも思いません。 90年代にすでに、もう「美しき日本」は残像しか存在しないと考えたあなたは、今の日本を見たらどう思うでしょうか? 確かに日本はどんどんだめになっています。日本の美は壊滅状態です。でも「徳不孤」です。いつかはあなたの感性への共感が日本に広がってあなたや多くの日本人や世界の人々を引きつける、本当の美しき日本となれたらいいですね。 おそらくこの本の読者の多くは、単にノスタルジーにひたるだけではなく、「まだまだ日本には、こんなすばらしい美も残っていたよ。」と自分なりの美しき日本を追い求めたい欲求にとりつかれるでしょう。 それではお元気で。一度、夜を徹して日本の古い民家で語り合いたいです。 (2007/11/16)
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最近クールジャパンとか言って得意気な日本が忘れてしまった感性を、外国人の著者が優しく懐かしむように書いている。「文人」とは?オックスフォード大学時代、学長から植民地の者呼ばわりされた事、野の花ならぬノーの花など、ユーモアあるエピソードも楽しかった。
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自分達がうつくしいと思っている田舎の風景も分明に侵食されたものというのがよくわかります。 当たり前すぎて見えていないもの。 HANDSの影響で(笑)電線というものがこんなに身の回りにあるんだというのも改めて気付かされました。
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日本人よりも日本に造詣と愛情の深い、異邦人から見た古き良き日本文化の残像について。著者は徳島県の山中にある祖谷渓谷に古民家を構え、そこから急速に失われつつある日本らしさを憂いている。 最近になってクールジャパンという言葉が出てきて、日本文化を海外に輸出しようといった号令の下に、...
日本人よりも日本に造詣と愛情の深い、異邦人から見た古き良き日本文化の残像について。著者は徳島県の山中にある祖谷渓谷に古民家を構え、そこから急速に失われつつある日本らしさを憂いている。 最近になってクールジャパンという言葉が出てきて、日本文化を海外に輸出しようといった号令の下に、様々なソフト産業に対する投資が増えているが、70年代から美術品や古民家に対する投資と目利きを行なってきた著者にとっては、今やほとんど価値のある日本文化の形は残っていないと嘆く。 我々現代の日本人にできるのは、その残像を現代のニーズに合わせて再び再構築していくことなのか。そんな問いかけをこの本を通じてされている。
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「犬と鬼」を読んで、さらにこの人の著作に触れたいと感じ、読んだ本。 日本はその歴史上で、自分たちで作ったわけではない借り物の産業革命を、自分たちの文化で咀嚼するまもなく受け入れざるをえなかったために、日本の伝統的なもの全体に対するアレルギーが生じている。特にショックを受けたのは、...
「犬と鬼」を読んで、さらにこの人の著作に触れたいと感じ、読んだ本。 日本はその歴史上で、自分たちで作ったわけではない借り物の産業革命を、自分たちの文化で咀嚼するまもなく受け入れざるをえなかったために、日本の伝統的なもの全体に対するアレルギーが生じている。特にショックを受けたのは、最後のほうのこの言葉。「今の日本人は昔の美に対して何らかの恨みを持っているのではないか」、「日本の自然と伝統文化はもう駄目だ」ということ。右を見ても左を見ても荒れ果てた光景が広がり、それを当たり前とする人間ばかりになった中、確かに希望はないが、それに気づいた少数は、少数ゆえに、新たな価値を見いだせる、そして築くきっかけとなりうるんじゃないかとも感じる。
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