零戦は、いまも世界の空を飛ぶ の商品レビュー
読み物というよりは写真集と理解した方が評価しやすい。零戦好きにはたまらない一冊なのかもしれない。私も物心ついた頃には太平洋戦争で活躍した戦艦や戦闘機が大好きだった。初めて買ってもらったプラモデルは空母「赤城」。その頃の自分が未だ真珠湾攻撃を理解していたかは謎だが、空母と一緒にパー...
読み物というよりは写真集と理解した方が評価しやすい。零戦好きにはたまらない一冊なのかもしれない。私も物心ついた頃には太平洋戦争で活躍した戦艦や戦闘機が大好きだった。初めて買ってもらったプラモデルは空母「赤城」。その頃の自分が未だ真珠湾攻撃を理解していたかは謎だが、空母と一緒にパーツに入っている戦闘機を机の上に並べていたのを覚えている。肝心の空母は父が余程高額で巨大なモノを購入してくれたのだろう。結局幼い私には最後まで組み上げる事は敵わず、無惨に押し入れ奥に長年眠っていた。兎に角3歳で初めて乗った飛行機に憧れて、飛行機が登場する戦争に無邪気に格好良さや憧れを抱いていたのだろう。 本書は現存する帝国陸海軍の貴重な戦闘機の姿を追い続け、写真とエピソードで綴られていく。最も有名な機は海軍の零戦であるが、設計者の堀越二郎氏は日本大学理工学部で教鞭を執っており筆者も講義を受けている。また家の近所に撃墜王の坂井三郎氏が住んでいたなど、まるで日本の航空史上最も輝いていた太平洋戦争時の戦闘機を後世に語り継ぐ為に生まれてきたのでは、とさえ感じてしまう。因みに筆者の父親も戦時は少年飛行兵として訓練を受けていたそうだ。その様な環境で育った筆者であるから、零戦だけでなく当時の戦闘機や偵察機にかける想いは文面から大いに伝わってくる。読んでいるこちらも一緒になって目を輝かせワクワクしてしまう(筆者ほど知識がある訳ではないので、勿論声を上げたりはしないが)。 改めて知ったのは筆者の様に太平洋戦争時の戦闘機に想いを強く持つ人々は世界中に居るようで、ジャングルに墜落した残骸を回収してリストアする人や、解体して設計を参考にしながらレプリカを作る人々が沢山いることを知った。きっと誰しも私が小学生の頃に赤城を手にした時の様な興奮と喜びに身体と心を震わせて接している事だろう。また前述したように、完全に復元するものと「似せて」作るのでは全く機体の扱いも異なるし、価値も違う。レプリカですら一機2億近くするとなると、これはもう国家プロジェクトでもない限り、当時の飛行機を全て復元・複製するのは無理だなと感じた。海外では当然存在する国立の戦争博物館が日本に無いのは大変残念な事だ。それ程までに日本人の戦争に対する埋め込まれた罪悪感は尋常ではないという事か。 兎に角本書は全てのページから筆者の少年の様な心とレンズが触れできた感動が伝わってくる。かつての太平洋上を乱舞した零戦の栄光の姿が目に浮かんでくる。 アメリカの無骨な戦闘機を筋肉粒々の男性と捉えるなら、徹底的にスリムに滑らかに曲線美を描く零戦は女性的だ。旋回能力や航続距離に拘り、防御力よりも軽量化を選択したことも、なんだか「鬼滅の刃」の胡蝶しのぶを思い出させる。 日本の敗戦が間近に迫った時期、大量に特攻へ投入された零戦達。死を覚悟して敵艦深くにその麗しい体を潜り込ませて行く。愛する家族や恋人のいる祖国への侵攻を少しでも遅らせる為、未来にそうやって戦った日本人が居たことを誇りに残す為、様々の想いを乗せて太平洋に散っていった。 後半、幻の零戦に遭遇するエピソードは何か胸の辺りに熱いものを感じた。
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