邪魅の雫 の商品レビュー
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なんだか、勝手がちがう。煉瓦本というのだったかな、ノヴェルズの体裁で厚さが4センチ強。厚みはいつもと同じなのに、手にした感触が軽いのだ。舞台が大磯、平塚という海に面して開かれている土地だからというわけでもないだろうが、禍々しさも足りない。ひとくちでいえば物足りない。世界が濃密に構築されていない。 一番の原因は、役者が揃っていないことだろう。榎木津や木場修といった濃いキャラクターがちらっとしか顔を見せず、狂言回しを務めるのは、木場修の後輩で青木という刑事と以前は刑事で今は榎木津の下で探偵をやっている益田。関口も登場するが、それまでの巻き込まれ形のキャラクターはすっかり影をひそめ、傍観者としてお付き合い程度の登場だ。これでは、話が面白くなろうはずがない。 事件は青酸カリに似た毒物による連続殺人だが、犯人と目星をつけた人物が次々と毒殺されていくのに、警察は何一つ効果的な対策をとることができない。青木と益田はそれぞれ京極堂を訪ねることで、事件の周縁部には達するのだが、後手後手に回る裡に6人もの人物が殺されてしまう。最後はいつものように京極堂が登場し事件は解決するのだが、京極堂の憑き物落としも心なしかあっさりしているような気がする。 凶器が毒物だけに事件の背後に帝銀事件や七三一部隊の影がちらつくが、事件の核心はそれらとはちがうところにある。キイワードは世間。人間が何人か集まればそこには世間ができあがるが、同じ人物が関係していても相手が変わったり場面が変わったりすれば、そこにはまた別の世間が作られる。それらは決して社会を構成することなく、そこだけに作られた小さな世間でしかない。しかし、人はともすれば狭小な世間を世界と勘違いし、愚かな行動を起こしてしまうものだ。 相変わらず、時空を超越したかのように「受容理論」を引用して書評について講義する中禅寺秋彦のテクスト論やベルクソン譲りの時間論、それに柳田國男張りの「世間」話についての長広舌が、ともすれば平板になりがちな刑事事件の解決に新しい光を導き入れ、京極夏彦らしい世界を垣間見せるのだが、それらは事件を解釈する際の蒙を啓く助けにはなっても、事件を解決するものではない。事件を一気に解決するには、「探偵」が必要なのだ。その探偵榎木津が、理由はあるにせよ、いつもの生彩を欠いていては、事件はいつまでたっても解決しない。京極堂が探偵の代理を務めるなど笑止である。 犯人及び関係者のモノローグを多用し、よく読めば、事実にたどり着けるような配慮はなされているが、「殺人」の動機も微妙だし、人物関係が不必要なまでに錯綜しすぎていて、読み終えた後でもすっきりしない。京極堂に言わせれば、こちらの頭が悪いからだろうが、これまでの京極作品には、こんな読後感は持たなかった。どんなに入り組んだ事件であっても、中禅寺の登場によって快刀乱麻を断つようにすっきりしたものだ。それに、これは評者個人の感想だが、読後、読んでいる者にも憑き物が落ちたような独特の清涼感があったものだが、今回の作品ではそれが感じられなかった。次回作では個性的なキャラクターが活躍することを期待したいものだ。
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相変わらず分厚いなあ。今回は毒をめぐる話。連続して起きた毒殺事件をいつものメンバーが追う。そして最後はいつもの通り京極堂が締める。これまでのシリーズと比べて少しスケールが小さいか。明確な動機を持った犯人がいないというのも入り込めない要因かも。閉塞感や幻惑感なんかが薄い感じだな。
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京極夏彦作品3つ目。 これは、私としては「京極夏彦らしい作品」って言えないものだったなぁ~って思ったの。 ストーリー的には面白かったんだけど、 帝銀事件のことや731舞台のこととか興味をそそる話も出てきたし。。。 でも、イマイチそこらへんの推理小説みたいなチープさが漂ってた気が...
京極夏彦作品3つ目。 これは、私としては「京極夏彦らしい作品」って言えないものだったなぁ~って思ったの。 ストーリー的には面白かったんだけど、 帝銀事件のことや731舞台のこととか興味をそそる話も出てきたし。。。 でも、イマイチそこらへんの推理小説みたいなチープさが漂ってた気がしないでもない。。。 なんか、こう奇妙さがもっと欲しかったなぁ~。って思うのよ。 PCで検索してみると、やっぱり京極ファンには不評だったみたい。 それでも一気に読んじゃったけどね。 次に期待!
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登場シーンは少ないはずなのにとんでもなく濃い榎木津感 事件は榎木津さん絡みだけど登場自体は少ない でも榎木津さんの内面に初めて触れられた気がする 神崎さんは榎木津さんと対等になりたかったのかなあ きっとただそのままでいれば良かったのにどこかで間違えて しまったのだろうと 榎木津さんはちゃんと神崎さんのこと好きだったろうに 切ない 益田、青木と名前を初めて呼んだところはハッとした 内面といえば益田さん、この人の軽口は処世術だったのですね! ああ愛しいよ益田! 関口さんと知り合って病気を勉強とかほんっと良い子!! そして関口さんは今回すこぶる元気でしたね。 回復は順調っぽいこの調子でうつ病全快するといいなあ
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わりと落ち着いていて淡々と物語が進んでいく感じ。 人の心にはきっと誰にでも「邪」なるものが宿っていると思う。 ただ、他の動物にはない人間特有の「理性」というものの影にかくれ ほとんどの人はそれを持ったままこの世を去っていく。 しかし、ちょっとした何かのきっかけで、理性の隙間から顔を出す。 たとえば、たった一滴の液体で・・・ 現代の様々な事件のニュースを見るたびに思う。 「邪」を抑えきれない人々が多すぎるなと・・・ 今回は榎さんの切ない物語・・・のはずが、出番はとっても少ないなぁ。 さて、この「百鬼夜行シリーズ」出版されているのは、ここまで。 もう、5,6年も続編が出ていないそう。 今年のGWから、一気に読んでしまったので続きが読めないと思うと 寂しい・・・ 早く、次回作がでないかなぁ・・・
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このシリーズが大好きです。 なんつー読みにくい本だ!と思ってたのに、なんでこんなにハマってんだろ。 個性的な登場人物たちが魅力的だったのが一番の要因だけれど、京極堂の謎解きには毎回はっとさせられる。 まったく違う視点からの答えは、確かに世の中には不思議なことなど何もないんだと納...
このシリーズが大好きです。 なんつー読みにくい本だ!と思ってたのに、なんでこんなにハマってんだろ。 個性的な登場人物たちが魅力的だったのが一番の要因だけれど、京極堂の謎解きには毎回はっとさせられる。 まったく違う視点からの答えは、確かに世の中には不思議なことなど何もないんだと納得してしまう。 とにもかくにも、早く新刊をお願いします!薔薇十字探偵ものも好物だけども、本編を!本編の続きを!
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邪なことをすると死ぬよ。 榎さんの常識人だったころがあって個人的には衝撃的。 ボーダーのシャツのイメージがどうしても抜けない。囚人服みたいな榎さん。 それから関君が雪絵さんのことを鞄に比喩した部分でこの夫婦の関係が推し量れる。それが収穫。
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シリーズの中ではイマイチかなと思うんだけど、それはともかくそろそろ最新作が出てもいいのでは。もう5年・・・愕然。
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CL 2012.9.3-2012.9.9 「百鬼夜行 陽」を読んで、本作を全く完全に 忘れていたので、衝動的に再読。 今、再読してよかったような。多分刊行当時より かなり冷静に読めたと思う。 で、当時より楽しめた。
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ル-=ガルー2の毒絡みで再読したんだが、最後以外ほとんど覚えてなかった。 真相がわかったところでスッキリもしないし、後味も良くない。 京極堂シリーズでは一番つまらないと感じる。
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