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731免責の系譜 の商品レビュー

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2017/01/01
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1999年刊。著者は共同通信記者。  丸太の振り仮名でも、地名でもない「マルタ」。  それは日本の細菌戦研究部隊731における、中露人他の人体実験被験者の隠語だ。  本書は、大本営で731部隊等の情報管理を司る立場にあった陸軍省軍務局軍事課課員新妻清一中佐が保管していた「マ司令部連絡綴」「特殊研究処理要綱」、そして新たに加わった米国公刊史料から、731部隊の研究を、自国・自身の手にしようとした米国やマッカーサーと、他方で、これを奇貨として、自己の免責特権の付与と、自らが関与する某血液製剤メーカー設立に悪用した元731部隊所属メンバーとの暗躍を暴く。  さて、当該血液製剤メーカーが後世になした悪行。これすら風化しつつある現在、果たして「マルタ」の問題を腑に落とすことができるかは?だが、本書のような未発見の内部資料の暴露がその一端になればとは感じる。  731部隊の情報欲しさの米軍を、悪用し、またタダ乗りした軍人が存在する一方で、贖罪の観念を失わない軍人もまた存在した。この落差には溜息をつくしかない。  そして他方の主役は米国政府と米軍、そしてマッカーサーである。  そもそも、朝鮮戦争での細菌兵器利用疑惑は完全に払拭されたわけではなく、ベトナムでは枯葉剤散布などから、少なくとも化学兵器の使用は明らかだ。  この本音の部分での米軍の基本姿勢は、情報提供の代償としてこれら731部隊の戦犯からの解放を認めたところに表れる。  そもそもサイパン戦では、日本軍は細菌兵器の利用を準備していたが、支援輸送船が到着前に沈没したので、結果的に細菌兵器の実戦投入は日の目を見なかっただけにすぎない。  これらが人道的にも国際法的にも問題があると見こされたので、731関係者は「マルタ」と細菌兵器の実戦使用(準備行為を含む)の秘匿を画策した。もちろん、情報解読・暗号解読に長けた米には「マルタ」の存在はバレていたが…。  この戦犯選択のダブルスタンダードには、特殊な情報を独占することにより、大統領就任へ近づこうとするマの野心が混然一体となって存在していたという事情がある。しかし、なんともはやとしか言いようがないところだ。

Posted byブクログ