闇がつむぐあまたの影 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ホラーテイストのヒロイック・ファンタジーで描いた ピカレスクロマンというところか。冒頭の雰囲気は悪く なし、主人公の悪漢ぶりに期待して読み始めたのだが。 確かに面白い点も多いし、善人がほぼ登場しないという のも痛快ではある。だがそれ以上に欠点が目立って しまっているような気がする。邦訳も一巻で止まって いるのも何となく頷けるという感じだ。 ひとつは途中で物語が「戦争」になってしまい、その中 で主人公ケインが果たす役割が今一つはっきりして いない点。一回読んだ限りの印象では、ただ双刀を振り 回して暴れているのだけが目立つだけで、戦争という システムにおいて司令官としての彼の果たした役割が ぼやけてしまっている。 そしてその戦争において「科学力」が発動される点。 物語が破綻を来すほどではないにしろ、ここで科学力に よる破壊光線が出てしまうのは、やはり興ざめであると 言いたい。「人知の及ばぬ謎の魔力」ではいけなかった のだろうか。 そして最も気になったのは、永い時を生きる不死の存在 としてのケインと、闘うことを喜び、世俗の権力を欲し 復讐を果たさずにはおれない俗物、あるいは悪漢として のケインが、上手く結びついていないところだ。 よくあるエルフ像に見られる長生から来る厭世観と いったものがケインにひとかけらも見られないことに 関しては何か説明があってしかるべきだったのではない だろうか。 続巻が訳出されていれば間違いなく読むところなのだが どうやらその気配はなさそうである。
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