ジャングル大帝(文庫版)(2) の商品レビュー
アニメ版を何度かみたことがあつたが、改めてマンガのはうを読んでみると、かなり違つた印象であると感じられた。人間と自然の対立といふよりも、地球の上で織りなされる異なる種類の生き物の生活模様といつたところか。 たしかに、月光石は物語の動きをつくる、大切な存在であるが、この作品の大半を...
アニメ版を何度かみたことがあつたが、改めてマンガのはうを読んでみると、かなり違つた印象であると感じられた。人間と自然の対立といふよりも、地球の上で織りなされる異なる種類の生き物の生活模様といつたところか。 たしかに、月光石は物語の動きをつくる、大切な存在であるが、この作品の大半を占めるのは、動物たちや人間の生活、白きライオンの世代継承の様子である。舞台もアフリカだけではなく、地球規模で縦横無尽に展開されていく。 動物たちの生態系を乗り越ゑて互いに協力して生きていく様子や、ライオンが人間に混じつて生活するといふことは、それだけで十分に大事であるにも關はらず、さういふ様子をコミカルに書けるといふのは、やはりこのひとの力なのだらう。 この作品の動物たちは、人間であつて人間でない。とても不思議な存在である。人間のやうに考え、人間と同様に振る舞ふ。しかし彼らが動物である以上、決して人間と重なることは決してない。それでも、人間と動物が互いにうまくやつている。白きライオンはその姿を越ゑて、ひとつのキャラクターとして息づひてゐる。 動物と人間のコミュニケーションといふものは、アニメやマンガを越ゑて、様々なところで用ゐられるが、大抵が、人間を代理するコマのやうに扱はれたり、人間になんとかして似せやうと必死の努力をしたりするものである。 この作品の動物たちは、人間の真似をして、人間のものを取り入れやうとするも、どうしたつてうまくいかない。しかし彼らはそれ以上何もしない。人間にならうとは思つていないのである。むしろ、人間に襲はれたり、サーカスの見世物にされたり、あるひは愛玩対象であつたり、人間に助けられたり、崇拝の対象であつたりする。動物たちは動物であることを決してやめやうとはしない。動物は動物のままである。一方の人間も、ジャングルでは自力で身を守れぬ無力な存在で、動物の助けなしには、物語を進められないきはめて非力な存在である。 この作品はさういふ動物と人間を、決してなれぬ互いの存在に変へることはない。むしろ、互いの限界を克明に描き、その限界を重ね合せることによつて、互いの個性を表現している。だからこそ、彼らはコミュニケーションをとつたり、互いに協力していけるのである。殊に、主な舞台となるアフリカといふ土地は、さういふ動物と人間が共に存在できる、未知の可能性にあふれた土地として、手塚氏は考へていたのだらう。
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小さなギャグやコミカルな動作で読者を飽きさせない工夫をしつつ、世代の継承(パンジャ→レオ→ルネ)や「生き延びること」について言及する、骨太な作品。 人間否定・自然讃歌ではなく、人間に疑問符をつけつつも最終的には讃歌になる、という構造がある。 自然に圧倒されもがく命の讃歌だ。 ヒゲオヤジ「皮……。肉……」 の場面は凄まじい。 雪山の描写が凄いからころ生まれる凄まじさなのだろう。
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レオがムーンストーン探しの冒険に行く話と、 人間の世界に憧れて家出した息子のルネが、失望して「やっぱりジャングルがいい!」と帰国する話。 人間より、レオとルネのほうが勇気があってかっこいい!!
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覚悟していたけれど、 やっぱりレオの最期は悲しい。 そのラストに向かうまでのエピソード、 妻のライヤを死に至らしめた流行病、 息子のルネがニューヨークでの体験やムーン山の探検などには、 金勘定が好きで争う事を止められぬ人間の愚かさや身勝手さ、 しかし、その一方で、 「いや、人間...
覚悟していたけれど、 やっぱりレオの最期は悲しい。 そのラストに向かうまでのエピソード、 妻のライヤを死に至らしめた流行病、 息子のルネがニューヨークでの体験やムーン山の探検などには、 金勘定が好きで争う事を止められぬ人間の愚かさや身勝手さ、 しかし、その一方で、 「いや、人間だって捨てたものじゃない。 いざとなれば、人間には無償の愛を示す事が出来るのだ。」 といった作者の手塚治虫氏の抱えた葛藤が これでもかとばかりに描きこまれていると思う。 大自然の前においては、 動物も、人間も、 なんて無力で弱い存在なのか。 子供が読んでも、大人が読んでも、 ずしりと心のくる作品だと思う。
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人間に育てられた白いライオン・レオの成長する姿を通して、自然と人間の関わりを描いた長編作品。生き生きとした動物たちや子ども時代のレオの可愛さに目が行きがちですが、人の欲望の醜さや当時は異端の学説だった大陸移動説等も物語に盛り込んだ、社会派かつ科学的な作品です。 レオを巡る人々や...
人間に育てられた白いライオン・レオの成長する姿を通して、自然と人間の関わりを描いた長編作品。生き生きとした動物たちや子ども時代のレオの可愛さに目が行きがちですが、人の欲望の醜さや当時は異端の学説だった大陸移動説等も物語に盛り込んだ、社会派かつ科学的な作品です。 レオを巡る人々や動物たち(父親パンジャ、母親エライザ、そして奥さんライヤまでも)が次々と死んでいってしまう物語構成は非常に寂しい。レオも最終的には自己犠牲で、ヒゲオヤジの命を守るために死んでしまいます(泣)。 その壮絶なクライマックスを通して読者に伝えられた「すべての命は平等である」というメッセージが、その後『火の鳥』『ブッダ』『ブラック・ジャック』等にまでも引き継がれていくことを考えると、この初期手塚作品『ジャングル大帝』(1954年完結)の偉大さを改めて理解することができるでしょう。
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