物語が、始まる の商品レビュー
情報科教員MTのBlog (『物語が、始まる』を読了!!) https://willpwr.blog.jp/archives/51302600.html
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本書に収録されている4編(表題作、「トカゲ」、「婆」、「墓を探す」)を読んでの印象は、大人専用の童話、というものだった。子供向けに書かれた童話が大人にも効く、というのはたくさんあるけれども、大人だけが読むことを許された童話というのは珍しい。 初めて読んだ川上弘美作品だが、わたし...
本書に収録されている4編(表題作、「トカゲ」、「婆」、「墓を探す」)を読んでの印象は、大人専用の童話、というものだった。子供向けに書かれた童話が大人にも効く、というのはたくさんあるけれども、大人だけが読むことを許された童話というのは珍しい。 初めて読んだ川上弘美作品だが、わたしが勝手に抱いてきたイメージとだいぶ違って、けっこうブラック。もっとのほほんと、ほんわかした感じなのかと思っていたんだけど。でも、そのブラックさが逆に魅力となっていて、なんだかこの世界から抜け出せなくなってしまったような変な錯覚に陥り、冷や汗が出るのに癖になりそうなんである。 まず、表題作は、男の「雛形」を公園で拾い、それを育てていくという話。三郎と名づけた「雛形」との生活。これはどう捉えたらよいのだろうかと悩みながら読んでいたら、いつのまにか読了していた。 そして、同じマンションに住むマナベさんから、幸運の黄色い座敷トカゲを分けてもらうという「トカゲ」。門柱の陰から手招きされて、吸い寄せられるように入っていった婆の家で、するめを噛みながら恋人鯵夫の話をしてしまう「婆」、姉の元へ死んだ父が訪れ、先祖と同じ墓に入りたいと言うので、姉妹二人で先祖代々の墓を探しに行く「墓を探す」。 どれも、コワイ。恐いんじゃなく、怖いんでもなく、コワイ。だから、なんとなく可笑しくて、ちょっと寂しい。ここが、大きな魅力なのだ。実際に自分の生活の中でも起こりそうな、でもありえない、でも身近な、ちょっとだけのぞいてみたいような、本当に不思議な感覚を残す。おもしろい疑似体験をさせてもらった。 本書は、著者のデビュー作ではないけれど、デビューして最初に出た本。次はどんな話が待っているのか、すごく気になる。ほんと、わたしの中で、物語が、始まってしまった。(2006.3.24)
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ぼんやりするなかにドキッとする刃がひらりと出てきては何事もなかったようにおさまって・・・気がつくと話が終わっているという何ともいえない読後感です。不思議だな〜
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2008.7/20 すごく不思議な話。「夢」みたいだと思った。なんか変だけど、ここではそうなんだと理解している感じが夢っぽい。
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短編が4つ入っています。 最初は「物語が、始まる」で、男の雛形(人形ではないらしい)を手に入れて女性と、その人間のようになっていく雛形の、奇妙な恋愛物語。 2つめは「トカゲ」で、幸福のトカゲを飼う事になったマンションの奥さんたちの話から、最後は一種狂気じみたオカルトのような...
短編が4つ入っています。 最初は「物語が、始まる」で、男の雛形(人形ではないらしい)を手に入れて女性と、その人間のようになっていく雛形の、奇妙な恋愛物語。 2つめは「トカゲ」で、幸福のトカゲを飼う事になったマンションの奥さんたちの話から、最後は一種狂気じみたオカルトのような世界になります。 3つめは「婆」。何となく立ち寄ることになってしまった、婆の家。不思議な穴が奇妙な世界観を醸し出しています。 最後は、「墓を探す」。あまり親密でない姉妹が、先祖の墓を探すことになります。ご先祖様がとりついているような姉と、不思議な世界を経験しながら墓を探す。物語は、墓にたどり着く前で終わっていますが、墓にたどり着いたときにはどうなるのだろう、と考えると、一種ブラックな感じもします。 いずれも、何気ない日常に始まって、不思議な世界へと読者を導きます。 川上弘美さん独特の感性、表現(特に擬態音的なもの)も健在です。
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素晴らしい物語を読むと「ごめんなさい」と思ってしまう。 「素晴らしい物語を提供してくれてありがとう」ではなく、 「こんな私がこの物語を読んでごめんなさい」と。 性格が捩れているのは今に始まったことじゃないけど、 素晴らしいものをきちんと賞賛できない性格は少し難儀です。 ...
素晴らしい物語を読むと「ごめんなさい」と思ってしまう。 「素晴らしい物語を提供してくれてありがとう」ではなく、 「こんな私がこの物語を読んでごめんなさい」と。 性格が捩れているのは今に始まったことじゃないけど、 素晴らしいものをきちんと賞賛できない性格は少し難儀です。 そんなふうに、久しぶりに「ごめんなさい」と思った作品でした。
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レビューはブログにて。 http://tempo.seesaa.net/article/64553151.html
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短編4話。 男の雛形を拾った女性の話である「物語が、始まる」は母子愛から始まり恋愛につながる源氏物語のような話。そこに川上さん独特の性描写がなされている。それでいてプラトニック。 「とかげ」は団地のような舞台に3世帯の主婦が織り成す物語。語り手がそれぞれの子どもを「〜家次男」など...
短編4話。 男の雛形を拾った女性の話である「物語が、始まる」は母子愛から始まり恋愛につながる源氏物語のような話。そこに川上さん独特の性描写がなされている。それでいてプラトニック。 「とかげ」は団地のような舞台に3世帯の主婦が織り成す物語。語り手がそれぞれの子どもを「〜家次男」などというのが面白い。最後は一種宗教的な場面で終わる。体内に入れて排出するというのはイオマンテなどを連想させた。 「婆」はある婆の家にある謎の穴の物語。異空間の表現はまさに非現実的。だけどその前後にある食事などの飲み食いの場面、猫などの動物が妙に現実染みている。そのせいか、異空間の場面もあまり異様ではない。 「墓を探す」は中年の姉妹が先祖の墓を探す物語。姉が霊媒体質になり、複数の先祖に憑かれる。その姉を山の中で獣にも見えるという表現が同作者の『神様』の熊を思い出した。アイヌ信仰を感じた。
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相変わらずの”うそばなし”です。 川上さんの作品を読むたびに「これは何だ?」とか「何故読むのか?」という疑問が浮かび上がってしまうのです。身に付いて役に立つわけでも無し(まあ、大抵の小説はそうですけど)、生きる勇気を与えてくれる訳でもなく。 で、考えた末に出した結論が「旅みたいな...
相変わらずの”うそばなし”です。 川上さんの作品を読むたびに「これは何だ?」とか「何故読むのか?」という疑問が浮かび上がってしまうのです。身に付いて役に立つわけでも無し(まあ、大抵の小説はそうですけど)、生きる勇気を与えてくれる訳でもなく。 で、考えた末に出した結論が「旅みたいなもんだ」と。 日常から離れて、川上さんの作る不思議な世界を旅する。遊ぶ。それが楽しければ良いじゃないかと。多くの旅なんてそんなものだし、何故旅するかなんて考えることなく、普通に行ってるし。 ただ、この世界は、論理も通じない不可思議な世界なのに、なぜか異様な実存感がある。それが川上さんの凄い所だと思います。
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いつもの暮らしのそこここに、ひっそり開いた異世界への扉―公園の砂場で拾った「雛型」 との不思議なラブ・ストーリーを描く表題作ほか、奇妙で、ユーモラスで、どこか哀しい、 四つの幻想譚。
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