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アメリカの鱒釣り の商品レビュー

3.9

66件のお客様レビュー

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    23

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2015/03/01

調性を無視し転調を繰り返すかの様な特異な文体と構成。それは入り組んだ迷路の様に見えるかもしれないが、行き止りは存在せずあらゆる出口が開かれている。ブローティガンの想像力は乾いた日常の景色やひび割れた現実をさらさらと洗い流し、淡く優しい土地へと創りかえてしまう。そんな鱒釣りワールド...

調性を無視し転調を繰り返すかの様な特異な文体と構成。それは入り組んだ迷路の様に見えるかもしれないが、行き止りは存在せずあらゆる出口が開かれている。ブローティガンの想像力は乾いた日常の景色やひび割れた現実をさらさらと洗い流し、淡く優しい土地へと創りかえてしまう。そんな鱒釣りワールドに溶け込んだ訳文が破格なまでに素晴らしい。「アメリカの鱒釣りちんちくりん」なんて何度でも声に出して読んでしまう。時代に対して声を荒げたりドロップアウトするのではなく、しなやかにその心を広げようとすること。それはとても気高い行為だ。

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2014/06/24

西瓜糖の日々の方が全体にストーリーと描写が好みで個人的に好きだったけど、文の軽快な感じというか、個性的な感じはこっちの方があるのかも。

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2014/05/14

 NHK のラジオ講座「英語で読む村上春樹」の解説に登場するアメリカの作家の一人で、今回初めて名前を知った。世界の文学の中でも、アメリカ文学は若干肌が違うと私は感じる。フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を読んでそれを感じた。それは一般論として他のアメリカ人作家にも言える...

 NHK のラジオ講座「英語で読む村上春樹」の解説に登場するアメリカの作家の一人で、今回初めて名前を知った。世界の文学の中でも、アメリカ文学は若干肌が違うと私は感じる。フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を読んでそれを感じた。それは一般論として他のアメリカ人作家にも言えることなのか確認するために、数人のアメリカ文学を読んでみることにした。まずはこのブローティガンからだ。  そしてこの次に狙ってのはサリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」だ。本はずいぶん前に用意しておいたが、なかなか取りかかれなかった。ちょうど今がそのチャンスだ。  この作品「アメリカの鱒釣り」を読み始めた時には、何だこれ?何でこんなのが売れてるの?と思ってしまった。これまで読んだ文学作品とはかなり違うからだ。題材もそうだし、言葉遣いがずいぶん異なるし、下ネタなどいわゆる性描写とは違った、汚さとでも言うかそういうものが、何となく肌が合わないように感じられた。  しかし巻末の柴田元幸氏の解説を読んで考えが変わった。この翻訳が出るまでのアメリカ小説は「人生の意味」なり「作者の教え」なりを読み取らねばならないという脅迫観念があったという。しかしこれが出てからは文章の奇想ぶりや語り口の面白さ、背後にある憂鬱などに耽溺するよう誘っているように思え、ものすごい開放感を感じたという。  私はまだまだそんな開放感を得られるほどに読めないが、そういう視点で読むとまた別の捉え方、認識ができるのかもしれない。ぜひそんな読み方が出来る大人になりたいものだ。

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2013/11/23

この小説は一貫したプロットがあるような、ないような一風変わったスタイルだ。基本的には、主として西海岸のあちこちで鱒を釣る話なのだが。能天気といえば、まあそうだ。ただ、この小説の書かれた1961,2年頃、アメリカは大きな転換期にさしかかっていた。J・F・ケネディが華々しく大統領に就...

この小説は一貫したプロットがあるような、ないような一風変わったスタイルだ。基本的には、主として西海岸のあちこちで鱒を釣る話なのだが。能天気といえば、まあそうだ。ただ、この小説の書かれた1961,2年頃、アメリカは大きな転換期にさしかかっていた。J・F・ケネディが華々しく大統領に就任したのが1961年。すなわち、ヴェトナムに本格的に軍事介入していく年でもあった。ヒッピーやボブ・ディランの登場も間もなくだ。ブローディガンは反戦、反米を叫ぶことはないが、隠者的に世に背を向けつつ「アメリカの」鱒釣りを書いたのだ。

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2013/11/04

なんとも猥雑な感じが、なぜか懐かしい。懐かしいという表現が妥当なのかどうか。 エルロイだったか、サリンジャーだったか。 サリンジャーのナインストーリーズの時は、日本語訳がなじめなくて、原書で読んでみた。生意気だったが、そのほうが意味が理解できるような気がしたし、実際、読んでみたこ...

なんとも猥雑な感じが、なぜか懐かしい。懐かしいという表現が妥当なのかどうか。 エルロイだったか、サリンジャーだったか。 サリンジャーのナインストーリーズの時は、日本語訳がなじめなくて、原書で読んでみた。生意気だったが、そのほうが意味が理解できるような気がしたし、実際、読んでみたことには納得した。 この本も、原書で読んでみるほうがいいのかもしれない。 そして、改めて訳者のセンスに共感できるのかも。

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2013/01/06

アメリカンドリームを見られない人々の物語。釣りと言えばヘミングウェイが浮かぶが、彼とは対照的に男らしさの欠片も無い。 訳者、藤本和子の語調が現代日本文学与えた影響は大きいようで、柴田元幸のあとがきや雑誌Coyote2008年7月号に詳しい。

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2012/12/11

村上春樹が好きな人は、好きそうだなと思いました。 でも、村上春樹が好きじゃない人も、楽しめると思います。 文体は近しいところがあるんですけど、 アメリカの農村部をテーマにすると味わいがまた違います。 村上春樹の文体があまり好きじゃなかった自分にも、 広くて、自然豊かで、ユーモ...

村上春樹が好きな人は、好きそうだなと思いました。 でも、村上春樹が好きじゃない人も、楽しめると思います。 文体は近しいところがあるんですけど、 アメリカの農村部をテーマにすると味わいがまた違います。 村上春樹の文体があまり好きじゃなかった自分にも、 広くて、自然豊かで、ユーモラスで、自由なアメリカには、 ばっちし合う文章に思えました。 まぁ、奇天烈さと表現を楽しむタイプの本なので、 合う合わないはあるかもしれませんね。

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2012/06/10

一行一行じんわりと溢れ出す幻想的な比喩を含む文章の泡立ちに酔いしれながら、〈アメリカの鱒釣り〉のことをなんとなく追いかけていく物語。物語が後から先から少しずつつながるところも、この読書の愉しさだ(でもそんなこと気にしなくていい、読むだけで愉しさに気づけるから)。

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2012/05/25

"Stop making sense!"「いちいち意味づけるのはやめようぜ!」(訳・柴田元幸) これは、アメリカのロックバンドであるトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンの言葉だ。一方的な価値判断の否定。カッコいい言葉ではないか! 本書『アメリカの鱒釣り』も...

"Stop making sense!"「いちいち意味づけるのはやめようぜ!」(訳・柴田元幸) これは、アメリカのロックバンドであるトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンの言葉だ。一方的な価値判断の否定。カッコいい言葉ではないか! 本書『アメリカの鱒釣り』も、"Stop making sense!"が似つかわしい作品だ。というよりも、価値判断しようがないんじゃないだろうか。ただ、カッコいいなあ、って気ままに感じるだけで、いいんじゃないだろうか。自分はそれでいいと思います。

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2012/05/18

ある歌い手がいる。とてもくせのある歌い方をする。 その歌い手は歌を歌うことが特別好きなわけではない。けれど、なぜかはわからないが自分の歌を聴いて周りが喜んでくれる。だから歌を歌う。自分には自分の歌の良し悪しはわからないけれど、みんなが喜ぶ顔を見るのが好きだから歌う。みんなが喜ぶ...

ある歌い手がいる。とてもくせのある歌い方をする。 その歌い手は歌を歌うことが特別好きなわけではない。けれど、なぜかはわからないが自分の歌を聴いて周りが喜んでくれる。だから歌を歌う。自分には自分の歌の良し悪しはわからないけれど、みんなが喜ぶ顔を見るのが好きだから歌う。みんなが喜ぶ顔を見るのは楽しい。 「あいつ面白いなあ」ある種の人にはその好んで歌っている楽しそうな感じが伝わってくる。しかし、ある人にはその「楽しそう」の裏側にある切実さに胸が締め付けられるように感じられるかもしれない。「まるであいつは歌を歌わされているようじゃないか」と。 『アメリカの鱒釣り』は言葉のもつある種の機能について、痛いほどによくわかっている人が書いたもの、という気がする。とても自由に見えて明るい、のだけれど、どこか切実さが感じられる瞬間がある。なぜかよくわからないが、ほとんど泣きそうになるような時がある。 カフカの言葉を出だしに引いている。「アメリカ人は健康的で楽観的だ」。ブローティガンは自分の母語や環境に備わっている「楽観的」な要素から目をそらすことができなかった人なのかもしれない。何か一つ言って「まあ、いっか」と次の言葉を繰り出す。でもこの「まあ、いっか」には無責任な感じがまとわりついていない。おちゃらけたふりをしながら言葉がちゃんとこちらへ投げつけられてくる。切実だ、と思う。訳者の力もきっとあるのだろう。 この本は結果的にアメリカのある部分を正確に切り取った記録になっていないだろうか。

Posted byブクログ