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アースダイバー の商品レビュー

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99件のお客様レビュー

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2013/03/09

政治家のスキャンダルやピンナップヌードの間に混じって男性週刊誌に連載した文章をまともめたものである。これほど知的刺激にみちた内容を通勤電車や昼食時の食堂の座席で読ませるにはそれなりの芸が必要とされる。絶妙な息づかいでエロス的感覚を漂わせる話題を提供し、読者の関心をつなぎとめながら...

政治家のスキャンダルやピンナップヌードの間に混じって男性週刊誌に連載した文章をまともめたものである。これほど知的刺激にみちた内容を通勤電車や昼食時の食堂の座席で読ませるにはそれなりの芸が必要とされる。絶妙な息づかいでエロス的感覚を漂わせる話題を提供し、読者の関心をつなぎとめながら、東京について自分の発見した新事実を披瀝してゆく。中沢新一らしい語り口の巧さが発揮された近著は、文句なしに面白い。 ルイ・アラゴンの『パリの農夫』は、パリという都市を主人公にした実験的な小説である。そこでは、田舎から出てきた農夫の目で凝視されることによって、合理的な都市であるはずのパリが、無意識の奇妙な運動に通底する魔術的な異空間に変貌する。それを読んだヴァルター・ベンヤミンが書いたのが有名な『パサージュ論』である。同じように田舎から出てきた中沢が、東京を主人公にした「意識と無意識がループ状につながった」詩的な作品を夢想するのは当然だった。 著者は、散歩の途中で偶然目にした縄文遺跡から、「東京の家の裏庭を掘れば五千年以上も前の縄文時代の遺跡が出てくる」という旅先で口にした冗談が、真実であったことを知る。早速、考古学資料にあたってみると、縄文海進期と呼ばれる時期に、現在の東京の奥深くまで海が侵入していたことが分かった。その「沖積層」の跡を現在の地図上にトレースしてみると、それまで町並みについて漠然と感じていたものが、一目瞭然、地図上に現れ出てきたのである。 それによると、まるで人間の脳のような複雑に入り組んだフィヨルド状の地図にマッピングされた古代の遺跡や墓場、神社は、洪積層の台地が沖積層の海に突き出した先端部分に集中していることが分かった。つまり「さきっぽ」である。人間の知らない領域との境界から、境界を越えて重大な意味や価値のあるものが現れてくるというのが古代人の愛した思考法である。「サッ」という音がそれを現す。「サカイ」「ミサキ」に含まれる音だ。 中沢は資本主義社会の先端を行く東京という街に、水というメタファーを持ち込むことで、古代的な死と官能に満ち溢れた精神世界をやすやすと引き寄せることに成功した。その論法でいけば、「乾いた土地」と「湿った土地」の二面性の引き起こすダイナミズムが新宿の隆盛を呼んだと言われても、芝の古墳群の上に立つ東京タワーが、天ならぬ死の世界へ架けられた「橋」であると言われてもなんとなく納得してしまうのである。 網野善彦を『僕の叔父さん』と呼ぶ著者である。慶応や早稲田という新時代を開く大学が揃いも揃ってなぜ埋葬地跡に建てられたのかという謎を、人々がそこを「アジール(聖域、逃げ込み場)」として、人家や畑にすることを避けていた土地であったから、政府が民間に払い下げやすかったと、説き明かしてみせる。それだけではない。学問や知性は、あえて「アジール」にあることで、権力や資本から自由であることが保証されるのだという。 著者の夢想する「アジール」は、最後は天皇制に行き着く。太田道灌築城当時の江戸城は中世の城らしく「ミサキ」に位置していた。その江戸前の海を埋め新橋や銀座の基礎を作った徳川氏には、城を都市の中心にするという近代的な発想があった。ところが、近代天皇制は、そこをまたもとの森にしてしまった。都市の真ん中にある森が象徴するものは、単一文化と経済主義を特徴とするグローバリズムに対する「アジール」であると中沢は言う。 北方ツングース系の民族と、それを受け入れてきた縄文人という異なる文化が混じり合い、それぞれの長所を出し合って造り上げてきたのがわれわれの文明だと著者は言う。明治に始まる男系原理の強い近代天皇制が、著者の考える縄文的な双系原理に基づく新しい天皇制に変わる保証はどこにもない。しかし、ここには近代天皇制に始まる硬い殻のようなものをもってこの国の「伝統」とする強張った愛国心にはない、しなやかな「知性」が感じられる。 ふだんあまり手に取ることのない男性週刊誌だが、こういうものを連載しているとは不勉強にして知らなかった。写真も多く、読みやすい。単行本化されたことで女性にも読みやすくなったことを著者のために喜びたい。

Posted byブクログ

2013/02/09

ブラタモリ好き必携の一冊。縄文地図を片手に東京を歩き、そうして見つかる残された痕跡を手がかりに古代から現代へ至る無意識の意識・秩序を想像し、やがて現代の資本主義、はてはグローバル経済にまで思いを馳せる。 東京の町並みに過去の痕跡を見出してからは、完全に中沢の妄想ではある。ほとんど...

ブラタモリ好き必携の一冊。縄文地図を片手に東京を歩き、そうして見つかる残された痕跡を手がかりに古代から現代へ至る無意識の意識・秩序を想像し、やがて現代の資本主義、はてはグローバル経済にまで思いを馳せる。 東京の町並みに過去の痕跡を見出してからは、完全に中沢の妄想ではある。ほとんど根拠のない仮定の上に立てられて無理やりなこじつけ。チベット仏教にはまってオウムを擁護してすっかり評判を落としたころからかわりばえのしない俗流な資本主義批判。妄想のひとつひとつには見るべきところはない。 でも、それでいい。地形を手がかりに土地の無意識へと没入することにこそ意義がある。そのあとの妄想や意味づけは各自がめいめいやればいい。ひたすら潜って歴史が育んだ地形を堪能すること、それこそアースダイバーの醍醐味。

Posted byブクログ

2013/01/20

都市論として興味が湧いて、読み始めは面白かったけど途中から精神世界の瞑想が迷走しているように感じて、二割くらいしかまともに読めなかった。ただ洪積地の経緯は参考になりました。煮え切らないものが多かったけどアースダイビングマップは貴重だし直感を掘り下げる機会になる本として納得させまし...

都市論として興味が湧いて、読み始めは面白かったけど途中から精神世界の瞑想が迷走しているように感じて、二割くらいしかまともに読めなかった。ただ洪積地の経緯は参考になりました。煮え切らないものが多かったけどアースダイビングマップは貴重だし直感を掘り下げる機会になる本として納得させました。またいつか読み直してもいいかもしれない。 都心に住んで自転車を乗り回すようになって高低差に敏感になっていたところ。自分の直感を掘り下げていこうと思う。

Posted byブクログ

2012/12/11

東京に住んで10年。 全然知らなかった、東京の新しい魅力を教えてくれました。 どんな場所にも歴史的・地理的な背景があって、 それをひとつずつ紡いでいく。 新たな好奇心に満ちてきます。

Posted byブクログ

2012/11/03

フィールドワークしているような錯覚。 時代を超えて東京が変容する様子が楽しい。隠れた闇の部分で怪しいものや妖しいもの達が未だに蠢いているような気がする。 見慣れた場所を時間旅行、東京がもっと好きになる!

Posted byブクログ

2012/09/24

個別具体の視点は面白いんだけど、それが今ひとつ全体の包括的な推測につながっていない感を受ける。それが物事に対する乱暴な目線と言われてしまえばしょうがないんだけど。。マップは見てて面白い。

Posted byブクログ

2012/08/02

歴史ってなんかつまんないイメージだけどこうやって自分の住んでいる街にも歴史があるんだって視点で学べれば楽しく学べたのになって思う。。。 土地の記憶っつーか、今の土地のひいじいちゃんの記憶くらい古い記憶なんだけど確かにそこにそれがあった事が今もわかるってのはなんとも面白い。。。

Posted byブクログ

2012/06/03

帯裏 まったく新しい東京散歩へ! ウォーミングアップ(東京鳥瞰) 湿った土地と乾いた土地(新宿~四谷) 死と森(渋谷~明治神宮) タナトスの塔(東京タワー) 湯と水(麻布~赤坂) 間奏曲(坂と崖下) 大学・ファッション・基地(三田・早稲田・青山) 職人の浮島(銀座~新橋) モダニ...

帯裏 まったく新しい東京散歩へ! ウォーミングアップ(東京鳥瞰) 湿った土地と乾いた土地(新宿~四谷) 死と森(渋谷~明治神宮) タナトスの塔(東京タワー) 湯と水(麻布~赤坂) 間奏曲(坂と崖下) 大学・ファッション・基地(三田・早稲田・青山) 職人の浮島(銀座~新橋) モダニズムから超モダニズムへ(浅草~上野~秋葉原) 東京低地の神話学(下町) 森番の天皇(皇居)

Posted byブクログ

2012/06/01

読んでる間中、背筋がぞくぞく。理論がぶっとぶ中沢さんですが、それも含めて面白い。脳内で歴史のサーフィンやってるような、タイムマシンに乗ってビュンビュン風を受けてるような、そうゆう気分にさせてくれます。

Posted byブクログ

2012/03/26

 東京の原風景については、いろいろな本がでている。  中沢新一氏のアースダイバーは、特に、洪積層と沖積層の境の地域に、地霊を感じている。  僕は、そこまで、精神的な世界に敏感ではないが、なるほどねと思うところもある。 (1)最後のページに東京の洪積層と沖積層の境の地図がつい...

 東京の原風景については、いろいろな本がでている。  中沢新一氏のアースダイバーは、特に、洪積層と沖積層の境の地域に、地霊を感じている。  僕は、そこまで、精神的な世界に敏感ではないが、なるほどねと思うところもある。 (1)最後のページに東京の洪積層と沖積層の境の地図がついていて、渋谷、赤坂、銀座など、自分がよめさんと息抜きに買い物にいく地域は、みんな沖積層にあることがわかる。洪積層は、皇居を初めとしてお堅いたてものが多い。 (2)東京タワーは、芝公園という古墳の上に、朝鮮戦争で廃物になった戦車の鉄くずをつかってつくった。芝公園は、戦後、増上寺に返還したり、ホテルができたりして、できそこないの都市公園という意味しかしらかなったが、古墳だったんだ。 (3)霞が関では、昔の省庁名でいうと、建設、運輸、自治、外務、財務、文部省が洪積層、農水省、通産、郵政が沖積層にある。なんとなく、あっけらかんとしているのが、洪積層にあるようで笑える。  自分もしらない町にいくと石碑とかほこらとか気になって仕方ないが、そういうところに、意外と何か運気ただよっているのかもしれない。中沢氏ほど、スリチチュアリティは感じないが。

Posted byブクログ