チルドレン の商品レビュー
まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き…。こういう奇跡もあるんじゃないか? ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「5つの奇跡」の物語。
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陣内のいい加減さと、時々飛び出す痛快な言葉のギャップに魅せられて、一気に読みきってしまいました。永瀬も素敵なキャラクターだと思いますが、やっぱり陣内の濃さにはかなわないかな、と。 張られた伏線が一つに結ばれる時の小気味よさがたまらなくよかったです。 普通の小説としても、ミステ...
陣内のいい加減さと、時々飛び出す痛快な言葉のギャップに魅せられて、一気に読みきってしまいました。永瀬も素敵なキャラクターだと思いますが、やっぱり陣内の濃さにはかなわないかな、と。 張られた伏線が一つに結ばれる時の小気味よさがたまらなくよかったです。 普通の小説としても、ミステリとしても楽しめる一冊です。 また、ペデストリアンデッキなど、仙台の街の描写がされていて場面が目に浮かぶようでした。これは住んでいた人間ならではのささやかな楽しみですね。
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5つの短編からなる連作集です。 ・・・が、筆者があとがきで「一つの長い物語として楽しんでいただければ」と書いているように、長編だよね?と思えるようなまとまりがありました。 一つ目の作品「バンク」だけ、いくつかの章(というか節?)に分かれています。 それぞれに小タイトルがついて...
5つの短編からなる連作集です。 ・・・が、筆者があとがきで「一つの長い物語として楽しんでいただければ」と書いているように、長編だよね?と思えるようなまとまりがありました。 一つ目の作品「バンク」だけ、いくつかの章(というか節?)に分かれています。 それぞれに小タイトルがついているんですが、その命名の仕方がツボでした。 こういう言葉遊びって大好き。 登場人物も魅力的。 目立っていたのは、盲目ながら的確な推理を見せる「永瀬」と、メチャクチャやっているようで奇跡を起こしてしまう「陣内」。 2人とも、セリフや行動に意外性がある。 でも無理がないんです。 永瀬の小気味好い推理は読みながら嬉しくなるし、陣内の言動も痛快。 何より素敵なのは、2人ともすごくあったかいの。 どの作品も最後にはピッタリと納まるので、『そういうことか〜』とスッキリ。 それでいて温かい気持ちにも浸れる素敵な作品でした。 余談ですが、私はどうも名前から人をイメージしてしまう癖があるみたい。 「伊坂幸太郎」さんも、もっとお年を召した方なのかと・・・。 お若い人だったんですねー。 2つしか違わないとは!意外でした。 でも、写真を見たら、作品から感じていた通りの優しそうな印象。 『やっぱりねー』と思っちゃいました。
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短編として一つ一つ完結しているのにつながっている。 さくさく読めて、そして後味のいい内容でした。 晴天の午後にバスに乗って外を眺めている。言葉にするとそんな本ですかね。
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ブラボー、伊坂幸太郎。この、少しほろりとして、同時にガッツポーズを取りたくなるような胸のすく思いがして、更に、ちょっと世の中のことを考えさせられるような話はなんだろう。ミステリー作家としてデビューはしたものの、恐らく本人にミステリーに対するこだわり、あるいは、描く世界を狭くしてし...
ブラボー、伊坂幸太郎。この、少しほろりとして、同時にガッツポーズを取りたくなるような胸のすく思いがして、更に、ちょっと世の中のことを考えさせられるような話はなんだろう。ミステリー作家としてデビューはしたものの、恐らく本人にミステリーに対するこだわり、あるいは、描く世界を狭くしてしまうような制限は、最初から無かったのだろう。 この本には5つの話が詰まっている。そこに登場する主要な人物はどの物語でも重なっている。しかし5つの話は時間の流れに沿って書かれている訳ではない。このやり方は伊坂幸太郎では初めてみたけれど、オーソドックスなオムニバス的手法だ。こういうやり方で書かれた時、登場人物の魅力だけに頼るのではなくて全体としてどこかに謎めいたところが残っていると、話としてもしまった感じがする。読む方も、話と話の間で停滞することなしに、惹かれるようにしてずんずんと読み進ことができる。もちろん、伊坂幸太郎の「チルドレン」でもその心配りはなされていて、ひとつ一つの話の中での小さな謎と、全体を通して明らかとなる、もう少し大きな謎とが交錯している。もちろん、ミステリーとしてみれば可愛い仕掛けなのだけれど、さすが解ってるよね、という感じがする。 その、もう少し大きな謎、に絡んで来るのが、主要な登場人物の一人である、陣内、だ。伊坂幸太郎の小説の中には必ずちょっと特殊な能力を持った人物というのが出て来るのだけれど、陣内もある意味でそのカテゴリーに収まる一人だと言える。彼は、底なしの自己中心的人物のようでありながら、周りの人間を何故か不思議と温かい気持ちにさせる能力を持っている。学生時代からの友人の一人である鴨居だけは、あからさまに陣内を嫌っているようであるが、付き合いを断たないところを見ると、彼は彼なりに陣内を好いていることが解って内心にやりとしてしまう。(余談だけれど、この、内心にやり、というのがどうも伊坂幸太郎の小説の特徴だが、なんとなく底の浅い楽しみ方であるようにも思えて、にやりとした後すぐに真面目な顔をするように心がけているのだけれど、どうもそこに惹かれるのだ)。陣内は、周りからみれば何を考えているのか解らない行動をしまくる。しかし、冷静に考えると、陣内の行動はそこにある問題を解決するのに効果的であり、あたかも彼が最初から計算で行動していたようでもある。そこで読者は考えてしまう。それは計算に基づいてのことだったのか、と。しかし、それはどうやら買い被りがすぎるようだな、と思い返す。その行ったり来たりで揺さぶられる。 5つの話の中で、一つだけ、どうしても陣内は計算ずくだなと思える話がある。それが「チルドレンII」で、その話は家庭裁判所に勤める陣内の後輩武藤の視点で語られるのだけれど、武藤が陣内に寄せるどことなく渋々の信頼が感じられるせいか、他の話には無いくらい陣内の行動は最初から最後まできちんと考えられたもののように思える。それでいて、全てをちゃらちゃらとやっているかのように振る舞っているようでもあるのだ。単純なヒーロー像ではないけれど、陣内を描く伊坂幸太郎がこのような人物を好んで描くのは、作家本人の人間観によるものなのだろうな、と思う。 特殊な能力を持つ人物は、実はもう一人登場する。それが盲目の永瀬だ。永瀬は生まれながらに目が見えないのだが、残った感覚能力を使って周りの状況を的確に判断することができる。本当の意味で、こんな人物がいたらとてもスマートだろうな、と思わせるのだが、またまた、これは伊坂幸太郎の小説ではお馴染みのキャラクターだ。例えば「陽気なギャングが地球を回す」では人のついた嘘が解ってしまう成瀬、「鴨とアヒルのコインロッカー」に出て来る謎の隣人。ちょっと間違えばこういうスマートな登場人物は薄っぺらくなってしまうのだけれど、伊坂幸太郎の描き方はそのギリギリのところで留まっている、と言えると思う。 これが直木賞を取るかどうかは解らないし、個人的には「重力ピエロ」の方がもっと良かったけれど、この作品が伊坂幸太郎のやりたいことっていうのを、少しはっきりさせたようにも思う。実は、そのやりたいことは、必ずしも自分にとって読みたいものかどうかは解らなくて、次の伊坂幸太郎の作品には、少しだけ手が伸びにくくなるのかな、という予感がしている。 ところで、帯に「短編集のふりをした長編小説です」という作者のことばがあるけど、その違いって何だろう? 自分にはこれは短篇集にしか思えないけど。まあ、それはお愛敬ってことで。
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