壁のむこうへ の商品レビュー
著者のスティーブン・ショア氏は、 自閉症スペクトラム (autistic spectrum disorders)の当事者である。 何度か来日し、講演もしている。 スティーブン・ショア氏は、とてもポジティブな人。 ムリしてそうなのではなく、呼吸するように 自然にそうなのだと思...
著者のスティーブン・ショア氏は、 自閉症スペクトラム (autistic spectrum disorders)の当事者である。 何度か来日し、講演もしている。 スティーブン・ショア氏は、とてもポジティブな人。 ムリしてそうなのではなく、呼吸するように 自然にそうなのだと思う。 プレゼンテーションも、おもしろくて、 聴いていると希望がもてる内容である。 彼のポジティブシンキングの元がこの本には詰まっている。 ポジティブシンキングだけではない。 自分にとって本当に困った状況の時には 何ができて、何ができないのか、 どういう援助が必要なのかを ちゃんと説明できる人なのだ。 現状のすべてを甘んじて受け入れたりはしていない。 だからこそ、彼は、自閉症の当事者として、 発言し、学業も修め、研究活動もできるんだと思う。 「主張すること」と「受け入れること」のバランスの大切さ、 そういう力をどうやって身につけてきたのかが わかる自伝になっている。 自閉症スペクトラムは、 「自閉症にはいくつかの下位概念があるが、それらは 個別の疾患ではなく、程度の差に過ぎないとの想定で 命名された概念」(『日本LD学会LD/ADHD等関連用語集』) である。 スティーブン・ショアもこの考え方を採っていて、 米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル 第4版(DSM-4)のように、自閉症、アスペルガー症候群、 広汎性発達障害−他の亜型、レット症候群、小児期崩壊性障害 と別々に見るのではなく、 自閉症からアスペルガーまでを程度の問題、 「表現するもののバラエティーの増加」で見ている。 図に表すと、まさに「スペクトラム」であり、 虹の光を発するプリズムのようにも見える。 そのように捉えるのは、 「受けた診断がどのタイプに該当するか考えこむよりも、 子どもが必要としているサービスやプログラムを提供することに 力を注ぐほうが断然意味のあることだろう」(p.242) と考えるためである。 『壁のむこうへ』は、本人の言葉で書かれている。 本に限らず、テレビ番組も含めて、 親の言葉で語られている作品も多い。 どちらでもない自分は、厳密にはどちらの立場にも立てないが、 その立てないことを前提にできることは何かを考えることが 必要なのではないかと思っている。
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