錦繍 の商品レビュー
「この人生には、死ななければ理解出来ない事柄がたくさん隠されているに違いありません」 死んでしまってから理解も何もないだなんて、そんなこと言ってたらキリがない。なにも自分自身が「死ななければ」とは限らない。残された者だからこそ「理解出来る事柄」だって、きっとたくさんあるだろうから...
「この人生には、死ななければ理解出来ない事柄がたくさん隠されているに違いありません」 死んでしまってから理解も何もないだなんて、そんなこと言ってたらキリがない。なにも自分自身が「死ななければ」とは限らない。残された者だからこそ「理解出来る事柄」だって、きっとたくさんあるだろうから。 思いを伝えること。もどかしくてたまらない。ましてや手紙なのだから。間に挟まる時間と空間、言いっぱなし、書きっぱなし、解釈の不可避と危うさ。直接会って話すことが許されず、あえて危険な橋を渡らざるを得ない。そのくせ、どこか長閑さすら見受けられ、矛盾のようなものが焦ったい往復書簡による物語だったけれど、殺伐としたやりとりに終始し消耗してしまうよりは、むしろ、その“長閑さ”によって救われたことのほうが多かったかもしれない。いい歳した大人同士、だからこその思いやりすら感じられた。 石田ゆり子さんの愛読書ということで手にした一冊。彼女は若い頃から何度も読んでいるという。読後、なぜか彼女の人生にまで思いを馳せてしまって、もどかしさやら、何やら悶々と…まったく大きなお世話ということですな。
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始まり方がもう好き。亜紀と靖明、2人の書く文章は胸の詰まるような美しさがあり(同じ作家さんが書いてるからそれはそうなのだけど)、限りある期間であったとしてもこの文通を難なくこなす2人はやはりかつて間違いなく愛し合ったのだろうと思った。靖明さんは少しクズ感があり現代で言うメンヘラ製...
始まり方がもう好き。亜紀と靖明、2人の書く文章は胸の詰まるような美しさがあり(同じ作家さんが書いてるからそれはそうなのだけど)、限りある期間であったとしてもこの文通を難なくこなす2人はやはりかつて間違いなく愛し合ったのだろうと思った。靖明さんは少しクズ感があり現代で言うメンヘラ製造機のような気が終始したけど、「あなたは魅力的な女性でした」なんて書かれた文章で部外者の私もウッと心を掴まれてしまう。2人が再会したのもきっと、導かれるような運命だったのだろう。
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亜紀のエピソードが長く、相手を責める感じがムズムズしてしまってしばらく置いておいた本だったけど、再開したら最後までだんだん明るくなってくるところに引き込まれて一瞬で読んだ。「生きていることと死んでいることは紙一重」。人選どんなにどん底があっても、そこから流れる月日を経て上向きに生...
亜紀のエピソードが長く、相手を責める感じがムズムズしてしまってしばらく置いておいた本だったけど、再開したら最後までだんだん明るくなってくるところに引き込まれて一瞬で読んだ。「生きていることと死んでいることは紙一重」。人選どんなにどん底があっても、そこから流れる月日を経て上向きに生きれるようになるんだなと思った。
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作品に出てくる様々な情景描写がありありと頭の中で再現され、美しい世界観に浸るとともに、人生における生と死の考え方について熟考できた作品でした。 手紙のやりとりも、まるで過去を昇華させているようで、2人の未来が明るいものであるようにと願わざるを得ませんでした。
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タイトル・表紙装画・内容とも、"美しい"の一語に尽きる一冊です。美しい織物や紅葉を例える「錦繍」‥これからの季節にピッタリです。 2人の男女の往復書簡だけで構成され、木々の葉が何色もの色糸で織りなすような、美しくも切ない大人の物語です。1982年刊行の古い...
タイトル・表紙装画・内容とも、"美しい"の一語に尽きる一冊です。美しい織物や紅葉を例える「錦繍」‥これからの季節にピッタリです。 2人の男女の往復書簡だけで構成され、木々の葉が何色もの色糸で織りなすような、美しくも切ない大人の物語です。1982年刊行の古い作品ですが、時代を超越した名作と感じ入りました。 10年前に離婚した亜紀と靖明が、蔵王のゴンドラで偶然に再会します。靖明が謎の女・由加子との無理心中?自殺?事件の果ての離婚でした。 この再会以来、薄れていた記憶や想いがもたげてきて、亜紀は二人が別れる原因になった事件の真実や靖明のその後と近況も気になり、自分の本心と10年の来し方を靖明に宛てて手紙を書く、というところから物語が始まります。 およそ1年に亘る、14通(亜紀から8通、靖明から6通)の手紙は、明らかに時間をかけ考え抜いて綴られ、返信までの"間"もゆったりとした時間を挟み、現代のSNSとは天地の差です。手紙を媒体にして、2人の退廃・情念思考が浄化され再生していきます。読み手にも深い余韻を残してくれます。 離婚した夫婦間で、こんな古くさい往復書簡はあり得ないとか、文学的で格調高い長文手紙は無理とか、今の夫婦間の障害にならないのかとか、種々指摘し詮索するのは野暮というものでしょう。 綴られる手紙の文章からあふれる人の心の機微、色彩や温度が伝わる情景描写に、素直に酔いしれてみてはいかがでしょう‥。
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多少、時代を感じる部分があったけど、キレイな文章で、ゆっくりと噛みしめながら読んだ。 過去から、今、そして未来へ… じんわりと心に刺さりました。
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蔵王のゴンドラに子供となった女性が出会ったのは、ある理由が原因で別れた男性であった。女性は男性に手紙を送り、それがきっかけにふたりの往復書簡が始まる。 物語すべてが二人の手紙だけの構成。はじめはお互いの境遇や別れる原因となった出来事に関するやり取りが中心であるが、次第に現在の生活に話題が移り、手紙をやり取りする二人にも心境の変化が表れてくる。 手紙は相手への連絡が目的ではあるが、同時に自分の気持ちを整理し気づいていなかった思いを掘り起こす意味があるのだと問う。 それにしても、この男性は女性と比べるとあまりにもだらしなく不甲斐なく感じてしまうのは気のせいだろうか。
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全編が手紙のやりとりで進んでいくから、二人だけの秘密を覗き見ているような背徳感がある。 お互いが特別な感情を持った相手に手紙を書いてるわけで、愛情も憎しみも寂しさも自分でもよくわかっていない感情も全部詰め込んだ言葉を手紙に綴っていて、一文一文に無駄が無い。 密度が高い綺麗な小説だ...
全編が手紙のやりとりで進んでいくから、二人だけの秘密を覗き見ているような背徳感がある。 お互いが特別な感情を持った相手に手紙を書いてるわけで、愛情も憎しみも寂しさも自分でもよくわかっていない感情も全部詰め込んだ言葉を手紙に綴っていて、一文一文に無駄が無い。 密度が高い綺麗な小説だった。
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とんでもない事件をきっかけに離婚した男女が、偶然再会を果たしたことをきっかけに、手紙のやり取りが始まった。 本書はその手紙だけで構成される書簡体の恋愛小説だ。 1980年代に書かれた本書には、当然現在のような通信手段や娯楽は存在しない。そして、手紙という通信手段を使わなくなった...
とんでもない事件をきっかけに離婚した男女が、偶然再会を果たしたことをきっかけに、手紙のやり取りが始まった。 本書はその手紙だけで構成される書簡体の恋愛小説だ。 1980年代に書かれた本書には、当然現在のような通信手段や娯楽は存在しない。そして、手紙という通信手段を使わなくなった私達が、手紙を書くという力も同時に失ってしまったのだと痛感した。手紙に綴られる内容を事実だけ書き連ねれば、ただのドロドロの不倫劇なのだが、その日本語の文体の美しさ、出来事のとらえ方に引き込まれる。 物語以外にも楽しむ要素のある小説だった。
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内容はさておき、確かに皆さんが言うように 文章が美しいと言うのはなんとなくわかる気がします。 文章の美しさについては説明できませんが、 物語が静かに、しっとり?進んでいく感覚がありました。(語彙力。笑) ですが、私はやっぱり感情移入はできませんでした。 元旦那が元妻宛ての手紙にて、 愛人がいかに美しかったかや、忘れられない甘美な思い出など綴ったりするとこなど、特に。笑 (こんな手紙読んでよく返そうと思ったな。元奥さん。笑笑笑笑) 元旦那に対しては終始、嫌悪感しかありません。笑 でも、 モーツァルト喫茶店のくだりは心温まって、 とても好きです♪
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