デッドエンドの思い出 の商品レビュー
この本には5つの短編が収録されている。 最初はどうもよしもとばななが語らせる主人公たちのとぼけた口ぶりに なじめずに、居心地の悪さを感じていた。 (たとえば大学生の男の子が口にする、こんな台詞。 「いけなくないんだけど、僕が思うに、それは本当の気のよさじゃないんだ。平...
この本には5つの短編が収録されている。 最初はどうもよしもとばななが語らせる主人公たちのとぼけた口ぶりに なじめずに、居心地の悪さを感じていた。 (たとえば大学生の男の子が口にする、こんな台詞。 「いけなくないんだけど、僕が思うに、それは本当の気のよさじゃないんだ。平和で、お金もあって、時間もあれば誰でも人は優しくなれるでしょう? それと同じで、このままではそういう時だけの気のよさになってしまうんだ。それで自分の中にいやな黒いものが育っていってしまう。もしくは、うすっぺらい気のよさで一生終わってしまう。僕はせっかくもともと気がいい男なんだから、できることならその気のよさを育てたいんだ。黒いものではなくて。」) しかし、最後の2作品『ともちゃんの幸せ』と表題作『デッドエンドの思い出』 はすばらしい。 すごく悲しくてすごく切なくて、根底に流れるものは圧倒的な絶望と諦めだ。 それでも、とても陳腐な物言いだけど、 人っていいなあ、生きてるっていいなあ、(ああ 本当に陳腐だ、ごめんなさい) もうすこしがんばってみるかなあ、としみじみ思わせてくれる。 人生捨てたもんじゃないよ、と。 そんなふうに感じた1冊。 久々に読書で心が温かくなった。
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