ボーパール午前零時五分(下) の商品レビュー
アメリカに本社を構える多国籍企業の工場は、インド・ポーパールの 人々に幸福と繁栄をもたらすはずだった。 5億人とも言われた農民を見込んだ殺虫剤製造工場は、当初の思惑 通りの収益を上げることが出来ない。 そこで打たれた手は当然のような経費削減だ。部品の交換時期は 延期され、腐食...
アメリカに本社を構える多国籍企業の工場は、インド・ポーパールの 人々に幸福と繁栄をもたらすはずだった。 5億人とも言われた農民を見込んだ殺虫剤製造工場は、当初の思惑 通りの収益を上げることが出来ない。 そこで打たれた手は当然のような経費削減だ。部品の交換時期は 延期され、腐食した管は見過ごされ、安全装置は解除され、化学 物質の専門家は工場を去った。そして、工場は操業停止を迎える。 殺虫剤の製造は行われなくなった。しかし、工場のタンクの中には 毒性の高いイソシアン酸メチルが大量に保存されていた。 1984年12月2日から3日にかけての深夜に、その事故は起こった。 イソシアン酸メチルのタンクに流れ込んだ水が発熱反応を誘発し、 有毒ガスが街に流れ出した。 正確な死者数は現在でも判明していない。1万5千とも3万とも言われる。 有毒ガスに襲われた人々の描写は壮絶だ。人の背丈を流れるガスから 身を守る術もなく、多くの人が苦悶のうちに死を迎え、生き残った 人々にも重い後遺症を残す結果となった。 事故を起こした工場の持ち主である多国籍企業、工場周辺に住む 貧困層の人々、事故当時に押し掛ける被害者たちの手当にあたった 医療従事者等。多角的な視点で事故までの経緯と、事故後の経過を 綿密に追っている。 ぼんやりとしか覚えていなかった事故だが、現在でも汚染物質は そのままに放置されていると言う。こんな大事故を追った作品が これしかないなんてなぁ。日本語訳が非常に読み難いのが残念だ。 チェルノブイリ同様、この大事故は今後も語り継がれなくてはいけい のではないだろうか。
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まず文章作品としてとても素晴らしい出来栄え。単なるルポルタージュでなく、物語としての構成が緻密にされているから、一気に読まされる。しかし、起こっている出来事はとてもリアル。素晴らしい工場がどんどんコントロール不能になってゆくignoranceの恐ろしさ。
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(上巻から続く) この本を読んでいると他の事故同様、この事故も複数の要因が重なって起こったことがわかる。 設計段階。人口60万人の大都市の近くに工場を建てるべきではなかった。 運用段階。必要以上の危険物質をタンクに溜め込むべきではなかった。 経営判断。経費削減のためにタンクの冷房...
(上巻から続く) この本を読んでいると他の事故同様、この事故も複数の要因が重なって起こったことがわかる。 設計段階。人口60万人の大都市の近くに工場を建てるべきではなかった。 運用段階。必要以上の危険物質をタンクに溜め込むべきではなかった。 経営判断。経費削減のためにタンクの冷房を切り、安全装置を切るべきではなかった。 失敗学として一級の事例と思われるこの事故が果たしてきちんと検証されているのだろうか。 一般的な分析型のルポタージュではなく、街やスラムに暮らす人々の暮らしぶり、エピソードをまじえながら迫りくる事故を描くという事実にもとづく物語仕立てとなっている。その描写は時に単調ではあるが、事故後も正確な死者数がわからないほど管理されてないインドという社会で、これほどまで緻密な取材を行い物語を構成できたのは驚きという他ない。 最近の調査では有毒物質が放置されままになっており、汚染された地下水による二次災害が静かに進んでいるという。管理能力の欠けるインドがこのまま経済成長して本当に大丈夫なんだろうか。第2・第3のボーパールが起こることはないんだろうか。一抹の不安を覚えた上下巻。その書き方にクセがあるので広くおすすめはしないが、失敗学に興味あるのなら、読んで損はないと思う。
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これは上とともに読んでもらいたいものです。 上は、事故前の状況を描いているのに対し、こちらは事故当時の状況と事故のあとのことについて、当事者の聞き取りを中心にして構成されています。
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