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灰色の輝ける贈り物 の商品レビュー

4.4

17件のお客様レビュー

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2023/02/11

朝の四時、ベッドで目を覚ました男は、寝過ごしたのかと不安になる。漁に出る時間だと、父が待っているだろうと。 だが、ベッドから半分身を乗りだしながら、海から遠く離れた都会でたった独りであり、桟橋の側に揺れる船は早朝の暗がりの影やこだまに過ぎないことに気づく。 家族への愛情と遠く離れ...

朝の四時、ベッドで目を覚ました男は、寝過ごしたのかと不安になる。漁に出る時間だと、父が待っているだろうと。 だが、ベッドから半分身を乗りだしながら、海から遠く離れた都会でたった独りであり、桟橋の側に揺れる船は早朝の暗がりの影やこだまに過ぎないことに気づく。 家族への愛情と遠く離れた故郷への締め付けられるような郷愁が回想され、そして否応なく、すでに失われ戻ることはできないことへの喪失感が浮かび上がる。短編集の冒頭にある「船」という作品は息子の視点からも、父親の視点から読んでも素晴らしい名品だと思う。 はっとするレトリックや、鮮やかに切り取られたストーリーは、この短編集にはない。 どこまでも実直で己の仕事に誇りを持ち、一族の脈々と受け継がれた伝統を胸に抱いて生きる寡黙な人々の生活が、美しく細やかな自然描写の中で描かれる。 一方で、危険で過酷な炭鉱の仕事や時に荒々しい顔を見せる海が簡単に人の命を奪っていく様、伝統的な仕事が廃れていく現実のなかで親と子は同じ価値観では暮らせないことが語られ、読後感は決して牧歌的でもノスタルジックでもない。そこが魅力的であり、何度読んでもやっぱりいいなと思わせられる。 農家だった祖父は、僕が生まれたとき裏山にたくさんの杉を植えた。いつかは木を切り、生活に役立つだろうと。 もはや訪れることもない土地と手を入れることもなく生い茂り過ぎた木々に、娘二人と女の子ばかりの孫達の中で僕が生まれたときに祖父が感じたであろう思いに、少しだけ心彷徨わせた。

Posted byブクログ

2021/08/31

しみじみと味わい深い短編集で、目を閉じて風や匂いを感じるように、ゆっくり少しずつ読みました。 何となく年配の読者の方が良さがわかる本の気がします。うまく言えないけれど、死が近いというか未来の死が見えている年齢、それから近代的じゃない生活を知っている年齢じゃないとこの本を良いとは...

しみじみと味わい深い短編集で、目を閉じて風や匂いを感じるように、ゆっくり少しずつ読みました。 何となく年配の読者の方が良さがわかる本の気がします。うまく言えないけれど、死が近いというか未来の死が見えている年齢、それから近代的じゃない生活を知っている年齢じゃないとこの本を良いとは思わない気がします。 アンドリュー・ワイエスの絵を思い出しました。ワイエスの絵の色や空気感や静寂と同じ感じがする本でした。 ゴツゴツとした岩のような労働者が描かれているのに、何故か髪を靡かせる女性を感じさせるのが不思議です。どちらも人物が寂しげで、人間より自然が勝っているからかも知れません。

Posted byブクログ

2017/12/08

これからマクラウドの小説を読み始めようとする幸運なあなたにはこの短編集から時代を追って、唯一の長編小説へと進んでゆくのをおすすめしたい。 ゆっくりでもいい、1日1篇とは言わず数ページ、数行づつでもいい。少しづつ読み進めていってほしい。後悔はしないはずだ。 心配することない。物語の...

これからマクラウドの小説を読み始めようとする幸運なあなたにはこの短編集から時代を追って、唯一の長編小説へと進んでゆくのをおすすめしたい。 ゆっくりでもいい、1日1篇とは言わず数ページ、数行づつでもいい。少しづつ読み進めていってほしい。後悔はしないはずだ。 心配することない。物語のたおやかなリズムに身体を委ねればいいだけだ。豊かでかけがえのない読書体験のひと時が、あなたを待っているのだから。

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2016/09/06

わたし自身は知らない作家であったが、読書家の中では大変評判のいい作家だということを知り、是非一度読んでみたいと思ったアリステア・マクラウド。 この作家は寡作のひとらしく、文庫化されているものは見当たらない。主に短編を書くようで、その短編をまとめた二冊をようやく見つけたので一冊購入...

わたし自身は知らない作家であったが、読書家の中では大変評判のいい作家だということを知り、是非一度読んでみたいと思ったアリステア・マクラウド。 この作家は寡作のひとらしく、文庫化されているものは見当たらない。主に短編を書くようで、その短編をまとめた二冊をようやく見つけたので一冊購入してみた。 八編からなる短編集。 マクラウドの初期の短編をまとめたものらしい。 年代順にまとめてあり、1968年から1976年の作品までが収められている。 全編通して感じることは、炭坑労働者の父や祖父と息子といった設定のものが多く、大人になる手前の青年が等身大の姿で描かれている。 炭坑という言葉から想像される、暗く厳しく貧しい生活と哀愁や侘しさが丁寧な状況描写によって、読み手の胸に映像のように浮かび上がる。 物語は派手なものではなく、ある一日を切り取ったようなもので、ままならない人生や変わりのない日常、生命の儚さといったものが感慨深く綴られる。 時に露骨な性や遺体の描写があったりするが、不快さは不思議と感じられず、物語に馴染んでいる。 少年が家族で父親の故郷に行き、過ごす姿を描いた「帰郷」、少年と生活が貧しく売らざるを得ない老馬とを描いた「秋に」、「失われた血の塩の物語」の三作が特に印象に残った。 好みは別れるかもしれない地味な作品ばかりだったが、わたしは早速もうひとつの短編集「冬の犬」を購入した。 静かで色褪せたようなマクラウドの世界は、居心地の良ささえ感じた。

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2016/02/09
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※このレビューにはネタバレを含みます

2016.1.31読了。カナダのケープ・ブレトン島を舞台に、漁師・炭鉱夫といった己の肉体を担保に日々の糧を稼ぐ人々の人生、あるいはその子供や孫たちの人生を描く短編集。彼らの暮らし向きは貧しく、これから先さらに苦しくなっていく。それでも親たちはそれ以外の生き方を知らず、子に同じようにしてほしいと思いもすれば、別の道を選んでほしいとも願う。それぞれの選択、あるいは選択する術さえなかった人生を、荒々しい海が、穴だらけの鉱山が取り囲んでいる。寂寥とした読み心地だが、不思議に胸がすっとする。お気に入りは『失われた血の塩の贈り物』。そこに描かれた港町の、貧しくも決して苦しいばかりでない生活の仕方が好き。

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2015/10/07

その日その日の生を繋ぐような日々。 親は自分よりいい人生を子どもに贈りたいと願い、しかしそれは自分たちとは別の道を生きるということであり。 自分たちと同じように昔ながらの暮らしを共におくってもらいたいという思いもあり。 親と同じようには生きられないという子どもの気持ち。 親にも...

その日その日の生を繋ぐような日々。 親は自分よりいい人生を子どもに贈りたいと願い、しかしそれは自分たちとは別の道を生きるということであり。 自分たちと同じように昔ながらの暮らしを共におくってもらいたいという思いもあり。 親と同じようには生きられないという子どもの気持ち。 親にも自分たちのそばで幸せに暮らしてほしいと思う気持ち。 親世代は漁師だったり坑夫だったり。 危険が多いわりには、報われるとは限らない職業。 勉強する時間があるなら体を動かして働く。そんな生き方。 だけど、漁獲高は減り、炭鉱は閉山になる。 それでも、これしか生きるすべを持たない人々がいる。 カナダのケープ・ブレトン島を舞台にした8編の物語。 でも、他人ごととは思えない。 これは私の親の、私の、私の子どもたちの物語でもある。 北海道に住んでいるから漁業や炭鉱の衰退が身近に感じるのかもしれないし、北海道から出ていい暮らしをしてほしいという思いと、北海道にずっといて欲しいという思いに揺れる親心は、本当に昔から今まで周囲にいくらでもあった。 親と子、祖父母と孫。 互いを思いあっているのに、いつしか離れていく彼らの道。 生まれ、愛し合い、そして死んでいく。 決して逆向きには流れない時間。 静かな諦めを伴いながら語られる血脈の物語。

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2015/03/07

東京物語のもつ離郷と離散の普遍性は、かつて全世界で形を変えながら進行したもの。その最後の化学変化が輝くところが集まる。 価値観の違いほど、人間関係で喪失感を与えるものはないし、なぜかそこを美しく感じてしまう。 離郷と離散が人類の何個めかの罪の一つとして、現代人のこころにのしかか...

東京物語のもつ離郷と離散の普遍性は、かつて全世界で形を変えながら進行したもの。その最後の化学変化が輝くところが集まる。 価値観の違いほど、人間関係で喪失感を与えるものはないし、なぜかそこを美しく感じてしまう。 離郷と離散が人類の何個めかの罪の一つとして、現代人のこころにのしかかっているのかも、とかいうとセンチメンタルすぎる気もする。そういうのは良くないかもしれない。 『霧は雪のように手を触れることはできないが、もっと重く、もっと濃い。ああ、水はなんといろいろな形になるものだろう!

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2014/05/29

新潮クレストブックス。 炭鉱夫や漁師とその妻である祖父母、都会へ出た息子たち。そしてその孫。 それら世代の差の中に残る‘血筋’と‘家族’の短篇集。 フェイバレットは、「帰郷」もよいけれどやっぱり「ランキンズ岬への道」。 思慮深く、という裏表紙の言葉が心に残る。 そして作品も...

新潮クレストブックス。 炭鉱夫や漁師とその妻である祖父母、都会へ出た息子たち。そしてその孫。 それら世代の差の中に残る‘血筋’と‘家族’の短篇集。 フェイバレットは、「帰郷」もよいけれどやっぱり「ランキンズ岬への道」。 思慮深く、という裏表紙の言葉が心に残る。 そして作品も。 追悼、アリステアマクラウド。

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2013/03/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

31年間にわずか16篇。短編一篇に二年がかりという寡作ぶりに、ため息が出る。次回作を待つファンにはさぞつらいことだろう。しかし、一度その世界を知ってしまうと、どれだけ待たされても次の作品を読んでみたいと思わせる作家の一人であることはまちがいない。 『灰色の輝ける贈り物』は、2000年に出版された短篇集『Island』から発表年代順に前半8編を収める(後半8編は『冬の犬』という表題で同じ出版社から出ている)。主な作品の舞台となっているのは、作家が育ったカナダ東端のノヴァ・スコシア州ケープ・ブレトン島、もしくはその周辺で、スコットランド高地地方から追われるように新大陸に渡った移民が多く住むところである。 「世界で最も美しい眺め」ともいわれる景観を持つが、真冬には睫毛も凍りつく厳寒の地。炭坑で石炭を掘るか、海に出てロブスターやサバを獲るか、いずれにしても厳しい肉体労働が主な仕事である。マクラウド自身、抗夫や漁師、木こりとして働いた経験を持つだけでなく、そうした仕事が好きだったと語っている。 厳しい自然の中で苛酷な労働を強いられる暮らしの中では、家族の結束が必要となる。父と子、父と母、祖父母と孫、いっしょに住んでいるからこそ確執が生まれる。かといって離れて暮らせばそこには罪悪感が生じる。作品の核となるのは、血を分けた者同士の心の結びつきであり、その結びつきを壊そうとかかる外界からの働きかけである。かつては苦しくても島で生きるしかなかった。今は島を捨てるという選択肢がある。 文学を愛しながらも生活のために漁師の道を選んだ父のため、生きている間は一緒に海に出ると約束した息子は、父の死後島とそこで暮らす母を捨て、都会で文学を講じる道を選ぶ。回想形式で物語られる巻頭の「船」には、「自分本位の夢や好きなことを一生追いつづける人生より、本当はしたくないことをして過ごす人生のほうがはるかに勇敢だ」という作家の信条告白が読みとれる。 炭坑町で父や祖父のように朽ち果てていくことを厭って、町を出た青年が、ヒッチハイクの途中で立ち寄った故郷と同じような炭坑町で、自分が祖父母や父母の人生を理解していなかったことに気づく「広大な闇」。はじめてのビリヤードで得た掛け金を手に意気揚々と帰宅した息子が両親に相手に返してくるようにと叱られる表題作「灰色の輝ける贈り物」。 炭坑夫らしい粗野な父親と都会暮らしに馴染んだ妻との間で板挟みになる父親の姿を子どもの目を通して描く「帰郷」。自分の命を救い、子どもが愛してやまない馬を、食い扶持がかさむから売り飛ばせと妻にいわれ、言い返せない男の姿を描いて哀切極まりない「秋に」と、「本当はしたくないことをしなければならない男」の姿を、子どもの目を通して描くことで、はた目には格好の悪い男の生き様が哀惜を帯びて浮かび上がってくる。 家族の心配をしり目に独り岬の上に立つ家で暮らす年老いた祖母に、家族の中でいちばん愛されている孫が、老人ホームに入るよう説得に行かされる「ランキンズ岬への道」もまた、「本当はしたくないことをしなければならない男」というテーマを持っている。誕生日を祝う一族が集まる席上で、祖母は孫が一緒に暮らしてくれると家族に話すが、孫の帰郷には秘密があった。余韻の残る結末に短編作家としての成熟を見ることができる。 他に三篇を含む。どれも美しくも厳しい自然の中、意のままにならぬ人生を黙々とたくましく生きる人々の姿を、感傷を排した筆致で描ききり、静謐な余韻を残す、傑作の名にふさわしい短編集である。

Posted byブクログ

2012/12/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

故郷とは、出て行くためにあるのか。 どんどん便利になる文明社会のなかで、炭鉱や漁業だけでは、暮らしていけなくなってくる。子供たちは田舎を離れ、学問を修めて、都会で仕事を得る。 カナダの遠い島での物語りが、とても身近な世界に感じられる。 若者の葛藤や老親の孤独。 いや、誰にとっても生きていくのは孤独なんだと「夏の終わり」が告げる。 「ランキンズ岬への道」がとりわけ心に残る。20代で夫をなくし、90すぎまで、辛抱強く生き続けてきた老婦人と26歳で命の終わりを告げられた孫の交流。人生とは...。

Posted byブクログ