ケンスケの王国 の商品レビュー
1988年、家族世界一周ヨットの旅の途上、英国少年マイケルが南の島で遭難した。孤島に流れ着き、不思議な老人に出会った。彼は旧日本兵。ケンスケと名乗った。約2年後、少年はひとり助け出されるけど、ケンスケから「少なくとも10年間は自分のことは口外するな」と約束させられる。それから10...
1988年、家族世界一周ヨットの旅の途上、英国少年マイケルが南の島で遭難した。孤島に流れ着き、不思議な老人に出会った。彼は旧日本兵。ケンスケと名乗った。約2年後、少年はひとり助け出されるけど、ケンスケから「少なくとも10年間は自分のことは口外するな」と約束させられる。それから10年後、マイケルは初めて語りだす…。 淳水堂さんのレビューを読んで紐解きました。設定を知ったとき、まるで「ロビンソン・クルーソー」と70年代横井さん小野田さん発見物語を足して2で割ったような話だな、と思ったら、正に作者がそのように記していたらしい。もう一つ「宝島」も加わっていたけど。 しばらくすると、ありったけの記憶をたどってみても、もう日本については何も話すことがなくなってしまった。それなのに、彼はまだ聞いた。 「最近の日本では、確かに戦争はないんだね」 それについてはぼくも自信があったので、そうだと答える。 「原爆が落とされたあと、長崎は復興されたんだね」 そうだと答え、まちがっていないことを祈った。(173p) ケンスケは妻と息子を長崎の街に残していた。戦後間もない頃、彼は上陸していた米兵から日本の敗戦、広島・長崎への原爆投下を盗み聞きして、妻子の故郷の全滅を疑わずに45年間島で暮らしてきた。決して人に見つからないように生きてきた彼の複雑な気持ちを、想像しないではいられない。マイケルと共に、わたしたち読者は「どうすれば一番良かったんだろうか」と考えずにはいられない。 ヨット世界一周旅行、遭難の危機、漂着した島でのサバイバル、相棒犬のステラの存在、大先輩ケンスケとの出会い。少年の好きな冒険譚がてんこ盛り。2000年英国「子どもの本賞」受賞。今年、初めて外国でアニメ化されたようだ。日本未公開。
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教育出版5年生教科書紹介本。 アニメ化もしてケンスケの声は渡辺謙らしい。 === 両親の失業をきっかけに、マイケルの一家はヨットで世界一周の旅に出ることにした。危険で無謀だが両親は腹を決めたのだ。 海に出るための航海術をしっかり学び、準備万端。さあ、ぼくたち家族のヨット、ペギー...
教育出版5年生教科書紹介本。 アニメ化もしてケンスケの声は渡辺謙らしい。 === 両親の失業をきっかけに、マイケルの一家はヨットで世界一周の旅に出ることにした。危険で無謀だが両親は腹を決めたのだ。 海に出るための航海術をしっかり学び、準備万端。さあ、ぼくたち家族のヨット、ペギー・スー号で海に出よう。 アフリカ、ブラジル、セントヘレナ島、喜望峰を回ってオーストラリアへ。魚やイルカたちの姿も見た。嵐も乗り越えた。家族は、家族以上の船員仲間のようになっていた。 だが南洋を航海中のある波の高い夜、マイケル少年と犬のステラはペギー・スー号から海に投げ出されてしまった。 マイケルが目を覚ましたのは砂浜だった。 実はここは小さな無人島で、マイケルはこの島に隠れ住む老人のケンスケに助けられたんです。ケンスケは最初は少年のマイケルに敵意を剥き出しにする。その反面一人ぼっちのマイケルに食料を運んでくれるなど、マイケルがこの無人島で生きるにはケンスケの助けが不可欠となる。 二人の仲が縮まったのは、マイケルが大怪我をした時。ケンスケは自分の洞窟につれ帰り看病する。 この時からケンスケは生きる手段、魚を獲ること、水を貯めること、植物を編んだり漂流物を使って必要なものを作ること。 ケンスケの生活は、清潔で、きちんと片付け、必要以上には求めない。そして島中にいるサルたちと心を通じあわせている。 その代わりにケンスケはマイケルから英語を教わる。二人は身の上話を語り合う。 ケンスケは日本の長崎出身の医者だった(イギリスに留学したこともあるのですこーしだけ英語も話せる)。 第二次世界大戦の時に軍医として軍艦に招集される。 1945年8月9日、艦の無線で長崎に原爆が落とされたことを知る。そしてケンスケの乗った軍艦は爆撃され、たった一人無人島に漂流した。軍艦から物資を運び出し、島に住むサルたちと暮らすことにした。 この周辺には船が通ることもある。そしてこの島に船に乗った人が降りることもある。だが日本兵であるケンスケは、故郷長崎に原爆を落とした連合軍から隠れ、船から降りる人が遊びでサルを撃つ姿に深く傷つき、人間不振を募らせていた。 同じ船に乗った仲間は死んだ。 故郷は破壊された。 妻も長に息子も死んだのだろう。 自分は他の人間から離れてこの平和な島でサルたちを守って暮らそう。 ケンスケにとってマイケルとの出会いは思いもかけない宝となった。このまま二人で共に暮らそう。 マイケルが了解したのは、半分は本心だった。両親のもとに帰らなければいけない。でもケンスケを残してはいけない…。 === 冒頭。アメリカの不況のような社会状況、一家が船を海に出すまでの準備や覚悟も書かているので話に入りやすいです。 海外小説や映画で、戦時中の日本や日本人を好意的、同調する目で語るものは少ない印象でしたが、このお話は元日本兵(医師だけど)の哀切が感じられました。主人公が少年のため、昔戦争した国という先入観もなく、今自分を助けてくれた寂しそうな老人という個人を見るという語り方が良いのかもしれません。 ケンスケが戻らなかったのは、本人が語っているような破壊された故郷や残酷な世界を見たくないとか、島の猿を守るためというだけでしょうか。帰りたい。帰れない。帰ってはいけない…。複雑な心を考えてしまいます。
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ケンスケはそんなに口数が多くないけれど、ひとつひとつの動作に感情がこもっている。それを言葉で描写している、著者のその表現力もまた、素晴らしいです。
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安定のマイケル・モーパーゴ。 一度耳にすると、忘れられないマイケル・モーパーゴ。 たまに呟かずにはいられないマイケル・モーパーゴ。 繰り返さずにはいられないマイケル・モーパーゴ。 だからかな?課題図書率高すぎ(絶対にだからではない)。 名前と違って中毒性はないものの、安定の安心感が漂うおはなし多しモーパーゴ。 初版が1999年。 たしかに決して新しいわけではないんですが、なんだろう。 訳が昔の外国文学を読んでいるような喉ごし……。最近「ザリガニ〜」とか「サムデイ」とか、チュルンとした訳本ばっかり読んでたからちょっと序盤咳払い止まらず。 そしてケンスケに出会うまでが長い。 全体の三分の一ほど忍耐して、やっとジェットスライダーの頂上に登り詰めた感じ。 しかしそこはジェットスライダー。 ジェットコースターとかじゃない。 そこから先、もう登る忍耐タイムは皆無でした。 多くの読者の脳裏で映画「オープンウォーター」がフラッシュバックしたあたりから訳感が気にならないくらいに引き込まれ始め…… ケンスケの得体のしれなさ。 無人島のワクワク感。 当然のホームシック。 元凶だしちょっとおバカだけどかわいいステラ。 強敵が「蚊」っていうシュールさ。 状況からいうと子どもの割にはドライかつ冷静なマイケル少年。 カワイイポジションをステラから強奪したオランウータン。 状況の割に偏屈度の低いケンスケ。むしろ博愛主義(島限定)。そしてデキる男。 夢の無人島ライフ。 最後はココがコメダじゃなかったら泣いてたよ。 そんなことあるかーい!なんていう野暮なツッコミはしないよ。 だって児童文学だもの。 子どもはこれくらいの良質な感動を浴びながら成長するべき。 その先で現実は厳しいってことを知ればいいのです。そうなのです。 ケンスケの心変わりだって絶妙。 児童書としては流れもタイミングも完璧。 そこに放り込む3つの約束だってグッとくる。 こういう公式が存在しそうなくらいの綺麗な着地…いや着水でした(ジェットスライダーで例え始めていたもので)。 下敷きとしては「終戦を知らずに南の島で隠れ暮らした日本兵」の話があるそう。 そのニュースは自分が生まれるよりも前のもので詳細を知りませんでしたが、元上官が島まで赴き、軍務解除を言い渡すまで帰国しなかったというエピソードは、本編を超えてくるレベルの衝撃。 だってこれは児童文学じゃないのに。 リアルなのに。 そんなわけ……あるんだろうな。 愛国心を植え込まれ、国のために死ねと盛大に送り出された時代。 純粋に物語を楽しみつつも、ケンスケが、ただの遭難した漁師とかじゃないことの意味。 その辺をしっかり織り込むモーパーゴ。 でも何が一番グッときたって、忍んでいた日本兵でも、少年からのファンレターでもなく、実際に筆が走り始めた(いや万年筆か?PCか?)きっかけが 「うちの犬の名前はバースレットさ。きみんちの犬は何ていうの?」 「ステラ・アルトワよ」 これっていう。 おしゃんすぎるよモーパーゴ。
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1987年に両親とヨットでイギリスから世界一周に出たマイケルは、パプアニューギニア近辺で遭難。老日本兵ケンスケに救われ無人島へ。二人と犬のステア・アルトア、それとサッカーボールとオランウータンとの生活。日本兵と英国少年だと、ロビンソン・クルーソーとフライデーというよりもミヤギさん...
1987年に両親とヨットでイギリスから世界一周に出たマイケルは、パプアニューギニア近辺で遭難。老日本兵ケンスケに救われ無人島へ。二人と犬のステア・アルトア、それとサッカーボールとオランウータンとの生活。日本兵と英国少年だと、ロビンソン・クルーソーとフライデーというよりもミヤギさんとダニエルさんみたいな神秘的かつ微笑ましい関係になりますね。ケンスケの心情に寄り添ったとても切ない話になっていて、イギリスなのにいいの?と思ったけど、子どもには敵味方でなく人間どうしの話として読んでほしいからなのかな。
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一気読み。 大好きなモーパーゴさんの小説。 家族とヨットで航海中に、一人遭難した少年が南の島で遭遇した不思議な老人。旧日本軍の生き残りだったケンスケとのサバイバルの日々と、脱出まで。 2000年の、英国の子どもたちが審査員となり作品を選ぶ、子どもの本賞を、ハリーポッターを押さえて...
一気読み。 大好きなモーパーゴさんの小説。 家族とヨットで航海中に、一人遭難した少年が南の島で遭遇した不思議な老人。旧日本軍の生き残りだったケンスケとのサバイバルの日々と、脱出まで。 2000年の、英国の子どもたちが審査員となり作品を選ぶ、子どもの本賞を、ハリーポッターを押さえて受賞したというこの作品。納得の面白さ。読み始めたら、続きが気になって仕方なくなり、途中で読むのをやめられる人なんていないんじゃないかと本気で思う。読まずに子ども時代を終えるのはもったいない!と絶賛してしまうけど、それくらい心に響いた作品だった。 日本人や日本文化が随所に登場するので、日本人は、ちょっとえっへん、と誇らしい気持ちになれるのも嬉しいところかも。
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家族で世界一周旅行に出、親と離れ飼い犬と共に島に漂着した少年の話。そこで出会うケンスケとの距離が縮まる様子や、島での暮らしに慣れていきながらも家族が恋しい気持ちなど、感情の揺れ動くところの描写がとても素晴らしく、色々な気持ちを体感できる。島の情景描写も簡潔ながら美しく、読みやすい...
家族で世界一周旅行に出、親と離れ飼い犬と共に島に漂着した少年の話。そこで出会うケンスケとの距離が縮まる様子や、島での暮らしに慣れていきながらも家族が恋しい気持ちなど、感情の揺れ動くところの描写がとても素晴らしく、色々な気持ちを体感できる。島の情景描写も簡潔ながら美しく、読みやすいのにひとつの充実した追体験ができる貴重な一冊だと思った。
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家族で世界一周ヨット航海をしていたイギリス少年が、オーストラリアをすぎた辺りの南の島で遭難し、ひそかに暮らす元日本兵と出会う。 イギリス的にはロビンソン・クルーソー、日本的には小野田さんや横井さんを思い浮かべたくなる物語。 「こんな話です」と説明するのは難しい。いや筋は説明でき...
家族で世界一周ヨット航海をしていたイギリス少年が、オーストラリアをすぎた辺りの南の島で遭難し、ひそかに暮らす元日本兵と出会う。 イギリス的にはロビンソン・クルーソー、日本的には小野田さんや横井さんを思い浮かべたくなる物語。 「こんな話です」と説明するのは難しい。いや筋は説明できるけど。 少年は世界を知る。というか、知らないってことを知る。 老人は異物を受けいれて己の世界を新たに見る。 ホームを喪失したふたりが出会って新たな一歩を踏み出す。 でもそういう話かって言うとそれも違う気もする。 日本人としては、ケンスケの描写に違和感がある。 子供に「ごめんなさい」、お休みのお辞儀、「トモダチ」という名付け、「不名誉」の使い方、戦前育ちだけど「子供の頃にサッカーをした」、産婆全盛期なのに「たくさんの赤ん坊を取り上げた」、その時代にイギリス留学するスーパーエリート医師だけど英語能力は微妙で着物を手縫いできるし細工の技術もある、などなど。 だけど、そのくらいはまあいいか、と思えるくらいに魅力的な物語。
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