シミュレーショニズム の商品レビュー
美術批評家、椹木野衣の強烈なデビュー作。いやぁ、面白い。アジるアジる。そしてちょっと懐かしい。当時は「〜は死んだ」とかいう断定が可能なだけ、何かが生き残ってたんだなぁと感じる。この本で多用される(日本・現代・美術でもあるけど)「そうではなくて」は、蓮實重彦経由か。とにかくこの著者...
美術批評家、椹木野衣の強烈なデビュー作。いやぁ、面白い。アジるアジる。そしてちょっと懐かしい。当時は「〜は死んだ」とかいう断定が可能なだけ、何かが生き残ってたんだなぁと感じる。この本で多用される(日本・現代・美術でもあるけど)「そうではなくて」は、蓮實重彦経由か。とにかくこの著者は、海外の美術や音楽をひっぱってきてばっかと言わてたけど、文体そのものは同時代の日本国内の、主に文芸批評が基盤にあると思う。 この本の「面白さ」は、そこに刻印されている時代性を超えて、ある強度を今だ保っている。その強度を支えているのは、実は一見怒りに見える否定的な素振りに収まらない、異形の情熱だと思うのだ。「否」を連呼しながら、しかしその連呼を生み出す基底には、最終的な肯定がある。もちろん、その肯定は単なる現状肯定とかとは無関係な、生のインテンシティの高さにだけ捧げられていて、だからこそあらゆる「死体」に向かって「お前はもう死んでいる」(古)という十字架をつきつけまくるのだ。椹木野衣のこの本は単純なニヒリズムではない。単純な破壊でもない。むしろ古風なまでに創造への指向を持った、悦びの肯定を歌う本なんだと思う。
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