村上春樹、河合隼雄に会いにいく の商品レビュー
心理学者と作家の対談。妙に息があっていて、なおかつ本質をつくものの見方、考え方にはっとさせられることが何度も。「無意識の可能性」に興味を持っているところなのあが、この中に出てくる源氏物語の怨霊、ノモンハン、「井戸掘り」の話のやりとりは、実は非常に奥が深いことだということに気づいた...
心理学者と作家の対談。妙に息があっていて、なおかつ本質をつくものの見方、考え方にはっとさせられることが何度も。「無意識の可能性」に興味を持っているところなのあが、この中に出てくる源氏物語の怨霊、ノモンハン、「井戸掘り」の話のやりとりは、実は非常に奥が深いことだということに気づいた。お二人の対話の中で出てきたキーワードは現代社会で生きていく我々に本質的な問いを投げかけてくれたのではないかと思う。
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村上春樹と河合隼雄の、この風通しの良い感じ。明晰な知性と、人生をきちんと生きてきたひとの持つ寛容さ。ほんとうに大好き。 自衛隊と平和憲法の矛盾についての河合先生のお言葉はもう、目からうろこ。あらかじめ矛盾をはらんだ存在としての人間を肯定し、ものの見方を問い直す姿勢に、加藤典洋の...
村上春樹と河合隼雄の、この風通しの良い感じ。明晰な知性と、人生をきちんと生きてきたひとの持つ寛容さ。ほんとうに大好き。 自衛隊と平和憲法の矛盾についての河合先生のお言葉はもう、目からうろこ。あらかじめ矛盾をはらんだ存在としての人間を肯定し、ものの見方を問い直す姿勢に、加藤典洋の「敗戦後論」を読んでいて感じたもやもやがすっと消えた。 矛盾をはらんだ存在としての人間、つまりひとは誤り得ることがほとんど運命づけられているという認識。 日本の戦後について、60年代の学生運動についてのお話で、本質的な暴力性という話が出てきます。正しいことをしている、正しいことを成すために暴力を用いるのだ、という考えは単純であり、思想を超えた本質的な暴力性への認識がなければうまくいかない。わたしたちは自らの中の暴力性を考慮にいれて行動すべきである、ということ。自覚が大切なんだなあと思いました。自分自身をできるだけ正しく認識するための努力を怠ってはいけない。 このお二人のお話は、物語の効力であったり、一見するとリアルさに欠けるような議題でも、なんというかリアルなんですね。それはこの二人がきちんと現実を、ノンフィクションを生きたうえでフィクションを捉えているからだと思います。 で、耳が痛いなあと思ったことがふたつ。 ・生きた人間でないものにエロス(求めること)を向けることは一概に良い悪いと判断出来ることではなく、結局はその人がどういう生き方をしていくかという問題である。ただ、自分が何をしているか、自分のしていることがだれに害を与えるかについて常に考えておくべき。個人の責任の問題として。 ・苦痛の無い正しさに意味はない。苦痛の引き受け方。何はともあれまず行動、ではなく、どうすればその正しさを自分自身のものとして身につけられるか考えなければならない。 わたしはこのお二人の言葉を読んでいると背筋が伸びるんです。気を張るという意味ではなく、人生にゆるく寄り添いながら、自分の道を探す。誠実さと正しさを持つべき場所をしっかり持つ。そんなことを思います。
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とても好きです。どちらかというと共感的な内容が多かったです。 「共感した」で正直感想を終わらせるのは好きではないですが、「意識化した」ということにしてもよいでしょうかね;; p152-3河合さんの映画の感想のとらえ方になんとなく共感。 自分も主人公にアイデンティファイしちゃうタイプだな-とか思ったり。 あとどこか忘れてしまったんですけど、河合さんの 「自分より器が大きいともうダメです」と言うコメントが気になりました。 なんとなく最近自分より器の大きい人に出会ってしまい、入り口が見つからなかったことがあったんでもしかしたらそれにちかいのかなーと。 ねじまき鳥クロニクルの井戸に対する考察が面白かったです。 私もこの本を初め読んだとき井戸に対する描写がすごい印象に残り再度本を手に取ったのでなにかモチーフとして何か感じるモノがやはりあるのですかね…… ------------------------------------------------------- 気になった内容走り書き 反抗についてその裏返しというのはその元のものとほとんど変わりがないという河合さんの言葉p48 オウムの物語の稚拙さ・稚拙さの力についてp87 若い世代の身体感について-気持ちよく有り続けるにはそれなりの対価を支払わなければならない(村上さんが自分を癒すために物語をかいていてもそれなりの対価を払っている…?) 芸術家の人は時代の病や社会の病を背負っている、個人的な病を越えているから社会に受け入れられる。 などなど。
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ちょうど、ねじまきクロニクルを書き終わった後くらいの対談。村上春樹がニューヨークに住んでいたとき、河合隼雄をたずねたらしい。ほぼ編集なしむき出しの対談とのことである。深い話がたくさんあった。でも、対談集って難しい。結構読み終わると大部分忘れている。文に起こされていたとしても、会話...
ちょうど、ねじまきクロニクルを書き終わった後くらいの対談。村上春樹がニューヨークに住んでいたとき、河合隼雄をたずねたらしい。ほぼ編集なしむき出しの対談とのことである。深い話がたくさんあった。でも、対談集って難しい。結構読み終わると大部分忘れている。文に起こされていたとしても、会話って忘れやすいものなのかもしれない。その中でも印象に残っていたのは、欧米人と日本人との言葉に対する認識の違い。徹底的に言語化する欧米に対してあいまいさや言葉にできない何かを持っている日本人。とかく、欧米的なものを是としがちな昨今にあってあいまいさの肯定は力強かった。
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村上春樹が河合隼雄とかなりディーブな対談を繰り広げる。 ちょうど、ねじまき鳥クロニクルからアフターダークあたりの時期. 湾岸戦争やオウム真理教がキーワードになっている。 ◆小説を書き始めたきっかけ 29歳にして村上が、ある日突然万年筆と原稿用紙を買ってきて、こつこつと...
村上春樹が河合隼雄とかなりディーブな対談を繰り広げる。 ちょうど、ねじまき鳥クロニクルからアフターダークあたりの時期. 湾岸戦争やオウム真理教がキーワードになっている。 ◆小説を書き始めたきっかけ 29歳にして村上が、ある日突然万年筆と原稿用紙を買ってきて、こつこつと毎日小説を書く。そうすることで、フッと肩の荷が下りた。いわば自己治療のステップとして小説を書いていた。それも全体の見取り図があるわけではなく、書くという行為に没頭して、スポンテイニアスな物語を紡いだ結果、それまでの伝統的な日本の小説に対してデタッチした村上春樹オリジナルの作品が生まれた。プロの作家として、必ず結末はくると信じているが、村上自身は、小説が自分よりも先に行ってしまっていて、ついていけてない感覚に陥るという。 そんな村上自身、長い海外生活を経て、デタッチメントではなくコミットメントの問題に直面し、これに正面から取り組む。 河合はこのことを、分析家として中立の立場を保ちつつ、コミットメントなくして分析治療は進まない、むしろ、外見的にはデタッチしているかのように見えて、静かで深いコミットメントが重要であると述べる。 つまり、体制に対する裏返しとしての反体制は、本質的に体制に組み入れられているものであり、コミットメントが深くならない。村上春樹は、既存の小説のスタイルにコミットせずに、自分でなんとか道を切り開いてスタイルを築き上げた点が特筆すべきなのである。 ◆要は体力だ しかし、それにしても、結末がわからない小説を書くのはしんどいだろうに。この点について、村上は、意識を常にニュートラルに集中し、予期せぬ出会いにも素早く対応する、ロールプレイングゲーム的な進み方であると自ら述べる。 そして、それには体力が必要。彼がジョギングを毎日している話は有名だと思うが、身体性の変化が文章に現れるということが、彼の口から語られると非常に説得力をもつ。 一方、河合隼雄は、治療には偶然の事象が必要だと語る。「あなたは絶対になおらないだろうけど、偶然に賭けましょう」と言うというのだ。分析家は、偶然待ちの商売で、必然的な方法は全部失敗するという。それこそ、オウムをはじめとする宗教的な考え方である。偶然待ちにはエネルギーが要る。やっぱり体力なのだ。 もう一つ、興味深い話。 ◆逆転移 フロイトは、分析家として逆転移(分析家が患者のことを好きになること)をあってはならないとしているが、それでは患者は強くなければいけなくなる。弱い人を助けるためには、逆転移も是として、感情をつきあわせながら乗り越える姿勢が必要だという。そうして、人が人を好きになることは大したことがないという考えに行き着くという。それでも、患者に教えられる、癒されるという姿勢を河合は大事にしているのは、ほかの著作からも随所に見て取れる。 小説作りにおける自発性、創作活動における身体性、深化するコミットメント(関連性)。ここには生きにくい世の中におけるヒントに満ちている。
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村上春樹氏が「ねじまき鳥クロニクル」を書き終えた直後の対談。ねじまき鳥は高校生の頃に読んで印象深い物語だったので、その話が度々出てきてその当時の自分を思い出した。頭の記憶と言うよりは、この中で村上氏が言っているように身体のリズムが思い出させたのだろう。この本自体も昔読んだような気がするが、当時はあまりピンと来なかった。けれども病院で働くようになって、臨床の仕事を何年もやるようになると河合隼雄氏の言っていることが響いてくる。そういうことがあるのだ、ということに共感する。欄外にある書く対談内容の個別の意見は読みにくい。それ以外はとても興味深い対談。
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「日本人は一人で悩む力が無い」と。 深いです。 皆でわたれば赤信号もこわくないって。 その文脈に流れている悩む力の話かな。 皆で悩んで皆で責任を分担して、その分悩む量が少なかったのかと。 逆に、全体で災難を受け止め、全体で悩んで。 結局、泣いて不満ばかり、なぜなら責任は全...
「日本人は一人で悩む力が無い」と。 深いです。 皆でわたれば赤信号もこわくないって。 その文脈に流れている悩む力の話かな。 皆で悩んで皆で責任を分担して、その分悩む量が少なかったのかと。 逆に、全体で災難を受け止め、全体で悩んで。 結局、泣いて不満ばかり、なぜなら責任は全体にあるから。 いま、これからは一人で悩む力が必要だと思う。 全体で受け止めてくれない社会になってしまった日本で、 いつも全体の責任にしてきたそのままではうまくいかないよね。 全体で受け止める、言葉にしなくても安心な社会はそのままにして、 いま、自分で物語を自分で作って一人でがっしりと悩みを受け止めてそして強くなる。 強者の論理ではなく、一人ひとりやっと個としてしっかり立ってゆく心の時代だからこそね。
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心理学者の河合隼雄さんと村上春樹さんの対談集 非常に興味深く面白かったです 村上春樹さんのデタッチメントからコミットメントへの変化 衝撃などを全体で受け止める日本人のよさと悪さ 結婚の井戸掘りの話とアメリカ人の結婚観 暴力に対する考察など、淡々と進められていく会話が とても興...
心理学者の河合隼雄さんと村上春樹さんの対談集 非常に興味深く面白かったです 村上春樹さんのデタッチメントからコミットメントへの変化 衝撃などを全体で受け止める日本人のよさと悪さ 結婚の井戸掘りの話とアメリカ人の結婚観 暴力に対する考察など、淡々と進められていく会話が とても興味深く、話の推移も滑らかで読んでいて心地よかったです “長くしないと物語というのはぼくにとって成立しえないのです” という村上さんの言葉、 村上さんの長編小説が理解できない私にとっては耳の痛くなるご意見でした
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一行を読み込むのにこんなに時間をかけて、同じ行をその内容がわかるまで何度も読み返した本は始めてです。 自分が普段使わない言葉や考え方、概念が詰まっていて、読み終わってもまだまだ理解しているとは言えないけれど何度も読み返してわかって行きたい一冊。
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う〜ん。うんうんと頷けるところもあれば、話の内容が難しすぎてよく分からない部分もあって、全体的にぼんやりした読了感だった。結局何の話だったんだ?お二人の雑談を横で聞いていたような感じだった。ま〜これはこれで面白かったという事にしたいと思う。
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