文章読本 の商品レビュー
中に収められている古今東西の名文の中で、私が最も感銘を受けたのは、日露戦争の折、幸徳秋水が『平民新聞』に載せた「兵士に送る」。丸谷さんが絶讃なさる通りの傑作。これ程胸を打つ反戦の文章があったろうか。保守リベラル双方の陣営の政治家、論客、マスコミの方々に是非一読 していただきたい。...
中に収められている古今東西の名文の中で、私が最も感銘を受けたのは、日露戦争の折、幸徳秋水が『平民新聞』に載せた「兵士に送る」。丸谷さんが絶讃なさる通りの傑作。これ程胸を打つ反戦の文章があったろうか。保守リベラル双方の陣営の政治家、論客、マスコミの方々に是非一読 していただきたい。勿論若い人にも。
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『考える力をつける本』の著者である轡田隆史氏の推薦書。 轡田氏曰く「文章について読むべき一冊だけを挙げろといわれたら、ためらいなく『文章読本』を推す」と。 そして、本書の中のこの一説を味わうことが書かれている。 「人は好んで才能を云々したがるけれど、個人の才能とは実のところ伝統を...
『考える力をつける本』の著者である轡田隆史氏の推薦書。 轡田氏曰く「文章について読むべき一冊だけを挙げろといわれたら、ためらいなく『文章読本』を推す」と。 そして、本書の中のこの一説を味わうことが書かれている。 「人は好んで才能を云々したがるけれど、個人の才能とは実のところ伝統を学ぶ学び方の才能にほかならない。」
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文章作法というよりは名文とは何かを論じた本。谷崎版と三島版の中間と位置づければいいか。 どちらかというと書きたい人向けではあるが、読み物としても面白い。谷崎版は読み物としてはちょっと……なところがあるので、そういう意味では丸谷版の方が面白かった。 ただ、新字旧仮名ってとっても読...
文章作法というよりは名文とは何かを論じた本。谷崎版と三島版の中間と位置づければいいか。 どちらかというと書きたい人向けではあるが、読み物としても面白い。谷崎版は読み物としてはちょっと……なところがあるので、そういう意味では丸谷版の方が面白かった。 ただ、新字旧仮名ってとっても読みづらい……。
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一読、「これじゃない」感。 修辞と名文の書き方は「美しい」和漢混淆文の確立という著者の夢物語とも思えてならない。見果てぬ夢だし、それに最も近づいた人物が丸谷才一だと言われればそうかとも思うし、なによりも日本において文語文体から口語文体を生み出したのが小説家であって批評家でも歴史...
一読、「これじゃない」感。 修辞と名文の書き方は「美しい」和漢混淆文の確立という著者の夢物語とも思えてならない。見果てぬ夢だし、それに最も近づいた人物が丸谷才一だと言われればそうかとも思うし、なによりも日本において文語文体から口語文体を生み出したのが小説家であって批評家でも歴史家でも、もちろん学者でもないという事実はよくわかるのだが、、、だからこそ、この本で認められている随想・随筆・(感情入り)批評の類を除き、日本には論理的文章が育たなかったのではないのか、という批判はぬぐいきれない。 ま、それは本文中で言う「欧文調」との距離感の問題かもしれない。だが、カタカナ語が通常の口語となった現代において、丸谷氏の求めた和漢混淆文こそが、残念ながら文語文なのだ。 知の巨人による近代文語文最終講義、というのが現在の位置づけか。
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本というのは、引用に次ぐ引用、また無限の参照作業であるとするならば、数ある「文章読本」は、またよくできた読書案内でもあるというのは当然のことだといえよう。 …ようするに、読みたい本がまたたくさんみつかった、ということ。 鷗外「羽鳥千尋」 尾崎一雄「虫のいろいろ」 「ハムレット...
本というのは、引用に次ぐ引用、また無限の参照作業であるとするならば、数ある「文章読本」は、またよくできた読書案内でもあるというのは当然のことだといえよう。 …ようするに、読みたい本がまたたくさんみつかった、ということ。 鷗外「羽鳥千尋」 尾崎一雄「虫のいろいろ」 「ハムレット」(福田恆存訳で) 「方丈記」 などなど。
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※このレビューにはネタバレを含みます
昭和52年の著書ですが、わずか30年足らずのうちに、日本語が大きく変遷したことを痛感しました。旧文体ともいうべき表現、古い漢字も多く、何よりも文庫でありながら、1ページの文字量もかなりのものでした。(活字のポイントが小さいのです)冒頭に著者が書いていますが、昭和9年の谷崎潤一郎に始まり、僅かの期間に川端康成、三島由紀夫、中村真一郎、そして丸谷と5冊の「文章読本」が執筆されたということもそれを語っていると思います。先日野球のイチローが米オールスターに出場が決まったときに「驚き以外の何ものでもないと」語り、それが若者の口から出てきたことに驚きとイチローの読書量を語っているという新聞記事がありました。まさに修辞表現ですが、この本の中で大岡昇平「野火」のレトリックについて詳しく記述し、いかに異常な状況にあるかを文章が語っているという説明がある中で、病気は治癒を望む理由のない場合何者でもない」という表現が取り上げられ、近代文学における対句の最高の成功例としていました。また吉田秀和が「わが相撲記」の中で常ノ花が負けた瞬間に「可哀想に!!そう思った途端、私は彼が好きになったのであった」という文章を取り上げられていることは喜びでした。
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谷崎版『文章読本』を以前に読んでいて(かなりの名著です)、それが教科書的としたら、こちらは実例が多いと聞き、資料集成的にと思って読んだ。確かに名文の類が数多く乗っている。ただ、著者のカタイ考えが多分に組み込まれているので、賛同できない部分もちらほら。もちろんかかれている事はほとん...
谷崎版『文章読本』を以前に読んでいて(かなりの名著です)、それが教科書的としたら、こちらは実例が多いと聞き、資料集成的にと思って読んだ。確かに名文の類が数多く乗っている。ただ、著者のカタイ考えが多分に組み込まれているので、賛同できない部分もちらほら。もちろんかかれている事はほとんどにおいて役に立つ事だが、谷崎版を読んでいたらこれは特に読む必要はないかと思う。
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あまり内容が頭に入って来なかった。漢語、古語、和歌がたくさん出てくるので、読んでも分からず、その点が苦しかった。 丸谷才一の文章も、これに関しては、正直、何を言いたいのか掴みづらものが多かった。 ただ、文章読本というだけあって、丸谷の文章は、文体に限っては、流麗で、読みやすく、読...
あまり内容が頭に入って来なかった。漢語、古語、和歌がたくさん出てくるので、読んでも分からず、その点が苦しかった。 丸谷才一の文章も、これに関しては、正直、何を言いたいのか掴みづらものが多かった。 ただ、文章読本というだけあって、丸谷の文章は、文体に限っては、流麗で、読みやすく、読んでるそばから、つい自分もそれに似た名文を書けるのではないかと錯覚する程だった。
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途中まで読んで、ふと佐々木高政の『英文解釈考』に思い至った。引用される文章の質、着眼点の細かさ、豊かさ、幅広さ、そしてそれらの肝心を丁寧にほぐしてゆく手腕の鮮やかさは両者通じるものがある。『解釈考』は『英文構成法』『和文英訳の修業』に列び称される佐々木高政三部作最大の労作であり、...
途中まで読んで、ふと佐々木高政の『英文解釈考』に思い至った。引用される文章の質、着眼点の細かさ、豊かさ、幅広さ、そしてそれらの肝心を丁寧にほぐしてゆく手腕の鮮やかさは両者通じるものがある。『解釈考』は『英文構成法』『和文英訳の修業』に列び称される佐々木高政三部作最大の労作であり、参考書の枠に留まらず、現存する英語関連書籍の最高傑作でもある。 『解釈考』が味読、すなわち読みの深甚を追求する書物である一方、本書『文章読本』は書くことの洗練を徹底的に模索する。そして、その手段として採用したのがとにかく「読む」ことだというのだから、丸谷才一という人は面白い。読み書き共に通暁流達の域に至り、語学に通じ、古語、漢語から雅語に至るまであらゆる日本語の粋を極めた男の文章流儀は、まさに簡潔にして重厚。曰く「名文を書くには、名文を読むしかない」と。 石川淳を引いて表現を語り、幸田露伴を引いて形式を語り、『野火』からレトリックを紡ぎ出すそのセンスには文句の付けようがない。特筆すべきはやはり修辞に関する箇所に於ける言及の緻密さで、大岡昇平の長編を自由自在に読み解いて的確な解説を披露するその見識と舌鋒の鋭さには恐れ入る。彼の言葉をそのまま拝借すれば、これこそまさに「達人の芸」であろう。 引用の多さと振れ幅の大きさに、一見すると本書は単に丸谷才一がセレクトした名文の見本市のように映るかもしれない。しかし、ここで示されているのは技巧的な教授ばかりではない。多くのサンプルを組み合わせて丸谷が提示しようとしたのはむしろ、書くという営為に向かう際の魂の位置、精神の姿勢である。どのように読むか、どのように書くかではなく、どのような人として読み、どのような人として書くか。これが『文章読本』を貫く丸谷の意識の基調なのだ。 読むことと書くことは互いに作用し合いながら別の全体性を形成するという、かなり混乱した関係にある。本書が改革するのは、書くことでも、読むことでもなく、それらの関係性そのものなのだ。それぞれの歯車が正しく噛み合って同調を獲得した時、真のリテラシーが俄かに姿をあらわすだろう。佐々木が別の角度から目指したのも、この美しい調和だったはずだ。 著者自身も指摘している通り、類書、というか全く同じ題名の本が他にも幾つかある。谷崎潤一郎のもの、三島由紀夫のもの、川端康成のものなどが代表的だが、丸谷の『文章読本』こそまさに白眉の名に相応しい。文章読本をお探しなら、まずは本書を手に取られたい。
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※このレビューにはネタバレを含みます
恐るべき一冊。 丸谷才一氏の「文章読本」は学術的に見ても娯楽的に見ても驚くほどの密度を誇った評論になっています。 これまで、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫ら数々の作家が僕たちの文章への接し方に関し、「文章読本」を著してきましたが、本著は冒頭より、何故これまで「文章読本」という言語学にも近い指導書を学者では無く、作家が著すに至っているのか、という所から始まります。 全文が歴史的仮名遣いで彩られている本著ですが、解説されている作品は現代小説はもとより、古文、漢文、果てはシェイクスピアの英文学にまで及んでいます。 これらの中から丸谷氏は「名文」として紫式部や李白、夏目漱石らの作品から全文、或いは一部を取り出し、感覚的、経験的にそして論理的に解説していきます。 これほどまでに包括的且つ網羅的に言及できる丸谷氏の力量は驚異的と言わざるを得ず、その知識と知恵の及ぶ範囲は一作家の枠を大きく超え、学者ですら凌駕するものではないかと思わされます。 丸谷才一氏の「文章読本」に関して作家の井上ひさし氏は次のように述べています。 「丸谷才一の『文章読本』を読め。とくに、第二章『名文を読め』と第三章『ちょっと気取って書け』の二つの章を繰り返し読むがよろしい。これが現在望み得る最上にして最良の文章上達法である。」 僕の所感としては九章の『文体とレトリック』も文章上達法に役立つのではないかと思います。 この章では直喩や暗喩といった馴染みのある技法のほか、代称、畳語法、換喩、撞着語法などの技法を「名文」と合わせて詳しく解説してくれているため、学術的なフレームワークで「名文」といったものを論理的に理解できるでしょう。 読み終わってからすぐにこのレビューを書いたのですが、上記のような「名文」の仕組みを知ってしまった途端に文章というものが難しく見えるようになった気がします。 皆さんも是非この恐るべき一冊を横に、新たな文章の景色を見れば、それとの関わり方が少しは変わってくるのではないでしょうか。
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