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思考機械 の商品レビュー

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2020/03/29

人工知能をめぐる問題を、ライプニッツの普遍記号学の構想やルルスの記憶術、マニエリスム芸術などと関連づけて論じている本です。 著者はまず、人工知能の研究者が自然言語の「意味」を記号表現することに向かって果敢に挑戦してきたことを紹介し、その試みが一定の成果を上げてきたことを評価して...

人工知能をめぐる問題を、ライプニッツの普遍記号学の構想やルルスの記憶術、マニエリスム芸術などと関連づけて論じている本です。 著者はまず、人工知能の研究者が自然言語の「意味」を記号表現することに向かって果敢に挑戦してきたことを紹介し、その試みが一定の成果を上げてきたことを評価しています。しかし著者によれば、可能世界意味論によって内包的文脈をあつかう道筋を開いたモンタギュー文法や、生態学的実在主義に基づいて「表象」の概念を不要のものとした状況意味論は、「きわめてナイーヴな客観主義」という前提が置かれているといわざるをえません。そのような指摘をおこなったうえで著者は、レトリカルでダイナミックな日常言語の位置づく「現実」に目を向けることで、コンピュータと人間が交信する新たな可能性が見えてくるのではないかと論じています。 さらに著者は、ルルスやライプニッツの思想を参照することで、「人工知能」にまつわる人びとの幻想の形に踏み込み、さらにマニエリスム芸術に、人工知能のゆくえを知るための示唆を求めていきます。マニエリスム芸術家は古典的な調和を疑い、人工的な技巧を尽くすことで世界を再構築しようとしました。したがってそこには、「計算可能なもの」と「計算不能なもの」とが拮抗しつつ、入り組んだ迷宮が顕現することになると著者はいいます。そしてここに、未来の人工知能が果たすべき創造性への示唆があるのではないかという見通しが示されています。 「人工知能」という人びとの夢を手がかりに、西洋思想史のなかに見られるゆるやかな連関をたどっていく試みということができるのではないかと思います。人工知能そのものの解説書ではありませんが、いろいろな興味をかき立てられる本だと感じました。

Posted byブクログ