密やかな結晶 の商品レビュー
<消滅>という単語を辞書で調べてしまった。 自分が失うことと、世の中から消えてしまうこと、そこにどんな意味があるのか、またはないのか、と、ずっと考えながら読んだ。 答えはまだでない。
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世界からひとつひとつ 何かが消滅していく物語 「消滅」が起きる朝には空気がいつもと違っている。 何が消滅したのかすぐに気づくこともあれば、 その日生活をしながら気づくこともある。 大半の人にとってその儀式は当たり前のことで 嘆いたり悲しんだりする対象のものではない そのうち消...
世界からひとつひとつ 何かが消滅していく物語 「消滅」が起きる朝には空気がいつもと違っている。 何が消滅したのかすぐに気づくこともあれば、 その日生活をしながら気づくこともある。 大半の人にとってその儀式は当たり前のことで 嘆いたり悲しんだりする対象のものではない そのうち消滅したことすら忘れて 心の中の空っぽは増えるけど 日常はちゃんといつも通り続いていく。 一部の「消滅」の影響を受けない人たちは 秘密警察による「記憶狩り」を恐れながら 周りの人と同化するよう息をひそめて暮している。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 何かが消えたとき それに気づくほうが幸せだろうか? 気づかないほうが幸せだろうか? 私はこの物語を読み終わったとき、悲しかった。 とても静かで寂しくて、でもどこか美しい悲しさを感じた。 消えてしまったことを覚えているから、悲しみを感じられるのだ。 そしてこの本そのものが「密やかな結晶」なのだと思った。
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奇妙な話だった。じわじわと人々のすべてを消滅させていく権力の不気味さ。自分を失わずしっかりと生きていこうとする主人公たち。秘密警察のリアリティ。 これは私たちの社会のことか。だとすると結末が哀しい。
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時を経る毎に何かが消滅していく、とある島を舞台にした物語です。 消滅といっても、おそらく感覚や記憶の問題で、何の感慨も湧かないものが目の前にある不条理さは、消滅した物を隠匿していた人を捕まえる、秘密警察の存在も同様で、何となく、ちょっと前に話題になった共謀罪の法案を思わせられて...
時を経る毎に何かが消滅していく、とある島を舞台にした物語です。 消滅といっても、おそらく感覚や記憶の問題で、何の感慨も湧かないものが目の前にある不条理さは、消滅した物を隠匿していた人を捕まえる、秘密警察の存在も同様で、何となく、ちょっと前に話題になった共謀罪の法案を思わせられて、薄ら寒さを覚えた。 ただ、そんな世界に於いても、諦めずにやれるだけやってみようとする登場人物の姿には、素直に心を打たれた。 主要人物の「わたし」の、何かが消滅していくに連れて、それを含めた想い出まで消滅していく空虚さは、失うものが増えていくに連れて、却って、外界の空虚な世界と上手く調和されていく皮肉さがやり切れず、その影響を受けない「R氏」と我々読み手にとって、登場人物たちの全ての想い出を忘れずに、心に留めておくことが出来る素晴らしく感動的な事柄を、おそらく、物語の中の「わたし」には共有させることが出来ない、そのやり切れなさが私には最も辛く感じた。
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※このレビューにはネタバレを含みます
評価の高い小説ということを新聞で読んだので読んでみました。 色々なものが徐々に消滅するという島に住んでいる人の話です。読後直後の感想はよくわからんかったです。 それでもいくつかの手がかりがあるので考えたことを書き留めておきましょう。この本のキーワードはこころの動きと記憶です。 小説の舞台は少し古い感じ、大正から昭和といった漢字の時代設定です。日本に限ったわけではないですが、バスや電車やフェリーがあったりします。白菜たべてるからアジアのような気がしますがそれはどうでもよいです。様々な消滅を突然同時に起きます。それは自然界のものであったり、人工的なものであったり、そして消滅してしばらくすると人々の記憶からもそのなくなっていったものは忘れさられていきます。しかし中には忘れることのできない人がいるのですが秘密警察の記憶狩りによってその人々は連行されていきます。まるで記憶することが罪なことのように。 このような秘密警察は独裁主義国家では国家に叛逆する分子をとりしまるような組織です。現実の秘密警察は国家ののぞまない未来を望む人をとりしまります。この小説では過去に拘泥するひとをとりしまります。このことから過去との連続性(記憶すること)が人間の価値だと小川洋子はいっているようです。 この小説のなかで主人公は小説家で小説を書いており、劇中劇の構造を取っています。そこでは主人公はうらわかい女性でタイプライターを習いながら、タイプが上達するに従い、声をうしない。タイピングの先生に塔にとじこめられ消えていくということになっています。心の動きが人間の精神で、その動きを記録するのがタイプライターなのですが、記憶するだけでなく小説のなかでは声をすいとる装置としてタイプライターが機能しています。 そして恐ろしいのはタイプライターはいつか故障して動くなるということで、小説(劇中劇の方の)の主人公も消えていきます。 ここにきて主人公はどうして自分が消滅していくのかなんとなくわかっていて小説を書いていることがわかります。消滅するプロセスをかくことで自分は忘れさられるけど作品を残すことで自分を残そうとしているのです。 では誰がその作品を読むかというと、島にはなんとか記憶狩りから逃れていきているひとがいます。小説の編集者のR氏です。他にも隠れていきているR氏のような人がいることは示唆されています。 R氏の記憶はしっかりとしており、過去の事物をしっかりと思い出すことができます。次々と記憶をなくす人がさった後の世界は記憶狩りが撮り逃した人たちで再生するのでしょう。 この作品はアンネの日記の影響がみてとれます。多くの描写が似ています。日々の些細なことに苦労しながらなんとか暮らしていこうとする努力が描かれます。我々は将来どうなるのかわからない漠然した不安を抱えていますが、その中でも日々の楽しみをよすがとしていきています。 それにしても秘密警察はなぜ記憶狩りをしているかはいまでもよくわからなかった。
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あらゆるものの消失。 破滅が訪れる予感がずっと通奏低音として流れていて、その空気が苦手な私は読みながら怖くて仕方なかったけど、その怖さを置き去りにするほどの静かなエネルギーで物語はひたひたと進んでいって、そして予想とは少し違ったところに着地した。 なんとなくすっきりとした気持ちに...
あらゆるものの消失。 破滅が訪れる予感がずっと通奏低音として流れていて、その空気が苦手な私は読みながら怖くて仕方なかったけど、その怖さを置き去りにするほどの静かなエネルギーで物語はひたひたと進んでいって、そして予想とは少し違ったところに着地した。 なんとなくすっきりとした気持ちになった。
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なんとも不思議に余韻の残る作品だった。とある島で少しずつ少しずつ何かが消滅して行くと言う筋で、ついには身体の部分までが一つずつ消滅するくだりには表現し難い感覚になってしまう。消滅を皆が自然に受け入れるなか、消滅を消化できない人も居て、彼らは秘密警察に狩られて行く。主人公の女性は作...
なんとも不思議に余韻の残る作品だった。とある島で少しずつ少しずつ何かが消滅して行くと言う筋で、ついには身体の部分までが一つずつ消滅するくだりには表現し難い感覚になってしまう。消滅を皆が自然に受け入れるなか、消滅を消化できない人も居て、彼らは秘密警察に狩られて行く。主人公の女性は作家だったが小説も消滅させられ、書く術も何もが消滅する。しかし編集者の男性は消化できない派の者だった。そこから 編集者を匿う女性と幼い頃から親しいお爺さん の三人を軸に終焉に向かっての不思議な話が進んで行く。何故だか読み手も引き込まれて途中で止められなくなってしまった。多分 好き嫌いが分かれる作品です。
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小川洋子の小説って、悲しくなる話が多いので、ここ数年避けていました。 が、可愛らしいのに物哀しさを感じる表紙に惹かれて手に取ってみたのです。 読み始めてすぐに、これはアタリだったな、と思いました。 あらゆるものが少しずつ、唐突に「消滅」していく島という不思議な舞台設定の面白さと残...
小川洋子の小説って、悲しくなる話が多いので、ここ数年避けていました。 が、可愛らしいのに物哀しさを感じる表紙に惹かれて手に取ってみたのです。 読み始めてすぐに、これはアタリだったな、と思いました。 あらゆるものが少しずつ、唐突に「消滅」していく島という不思議な舞台設定の面白さと残酷さ、登場人物の温かさから、ページをめくる手が止まりませんでした。 寂しさ・切なさをさらりと描かれた作品です。
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※このレビューにはネタバレを含みます
不定期に1つずつ何かが消滅していく世界に生きる小説家の女性。 消滅を感じない人々は秘密警察に連行されてしまう。 小説家は編集者のR氏を秘密警察からかくまい日々の生活を送るが、秘密警察と決定的な消滅に包囲されていく。 まるで結晶が育っていくような静かで密やかな内容。 著者の紡ぎだす静謐な世界感が好き。
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何とも言えない雰囲気がたまらなくよかった。ここはどこなんだろう、時代はいつなんだろう、とにかく不思議で不気味。
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