京都古寺 の商品レビュー
水上勉の本はこれが初めて。小説ではなくエッセイです。 京都の寺で坊主の修行をしていた彼ならではのエピソードを交えながら、魅力的な古刹について紹介しています。 小説でないにしろ、やはり彼の文章のイメージとしてある貧しさ、満ち足りなさ、僻みといった要素がかすかに織り込まれている文章...
水上勉の本はこれが初めて。小説ではなくエッセイです。 京都の寺で坊主の修行をしていた彼ならではのエピソードを交えながら、魅力的な古刹について紹介しています。 小説でないにしろ、やはり彼の文章のイメージとしてある貧しさ、満ち足りなさ、僻みといった要素がかすかに織り込まれている文章。 それは、彼の性格を形作った幼少時を、京都の古寺(相国寺、等持院)で過ごしたことが大きいのかもしれません。 でも、そうした寂しげな表現を凌駕するきちんとした情景豊かな文章でまとめられています。 本のどこにも寺の位置が記された京都地図が載っていないのは、やはり観光ガイド本でないからでしょうか。 挿入されている寺の写真は、どれも美しく、印象的でした。 あとがきで、瑞春院が彼の作品『雁の寺』の看板を掲げて入場料をとる観光寺院になっている話を挙げ、「私の小説の題名と、この寺は、何のかかわりもない。この寺で育ったが、小説はすべて空想の所産である」と言いきっている点に、彼のやりきれなさが見えました。 京都の寺院に深い愛着を抱いている著者の気持ちがにじみ出てくるような一冊です。
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