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チベット偽装の十年 の商品レビュー

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2023/02/18

おもしろい! 戦時中、中国西部で日本軍の諜報員として中国西部の情報収集のため、内モンゴル、青海省、チベット、インドへと旅をした木村肥佐生の物語。興亜義塾という養成機関に入った1940年から、1950年に日本に戻るまでの、18歳から28歳までの10年の出来ごと。自分たちの世代は生き...

おもしろい! 戦時中、中国西部で日本軍の諜報員として中国西部の情報収集のため、内モンゴル、青海省、チベット、インドへと旅をした木村肥佐生の物語。興亜義塾という養成機関に入った1940年から、1950年に日本に戻るまでの、18歳から28歳までの10年の出来ごと。自分たちの世代は生きられてもせいぜい25歳くらいまでだと腹をくくっていた、という戦争に彩られた青春。その中でも中国西域への尽きない興味、未知の世界への探求心が文章からはじけてくる。生命力、生き抜く力にたけているなあと感嘆する。 木村氏には1958年刊の「チベット潜行十年」という講演速記録がもとになった本があるが、当時入れられなかったチベットでのエピソードを入れ、米国人作家スコット・ベリー氏の手により再編集されたのが本書。会話なども入り、木村氏と旅の道連れとしたモンゴル人夫妻との道行がとても生き生きとしている。 また戦争が終わってインドに入ってから、英国の求めで西川一三氏とともに行ったラサ西部への諜報活動も入っている。そして木村氏はチベットでチベットの将来を憂える活動家と親しくなるが、チベットが中国軍の侵攻を前に外国人を追放したことにより、インドに戻り、やがてカルカッタに行きカルカッタ治安統制部に自首する。スパイということで逮捕になるかと思ったが本国送還が決まり、その時、西川一三氏を異国に残しては・・ と思い西川氏のことも話したとあった。その時西川氏はビルマ行きを決意していた直後で、連行された二人の間には険悪になったとあった。が、日本に戻りGHQで取り調べを受けた時復員局の共同部屋で仲直りできたとあった。そして西川氏も旅行記を書き始めていて原稿に目をとおしたが、出版されると原稿には無かった木村氏への攻撃文が何か所もあったとあった。編集者の横やりとしか思えないとしている。 善隣協会という中国西部の研究、といった看板の一部としての諜報。最初は羊の改良の仕事、そして西部へのあこがれから西部行きの計画を出し認められ、大使館付きということで1年をめどにということで西部行きに出発。新彊地区へ行く目的だが政情不安からかなわずラサへ、そこで敗戦となり、ラサからインドへ。ラサではあの「セブン・イヤーズ・イン・チベット」の一人ハインリヒ・ハラー(映画ではブラッド・ピット)にピストルを売ったというのだ。 「チベット潜行10年」1958刊:日本のミニヤコンガ登山隊のために、その地の天候や地勢、住民に詳しい人物として主催者の毎日新聞社の求めで講演を行った速記録。 後からの回想という形のため、当時の軍国少年青年だった時の気持ちが、中国でみる日本軍、現地人の状況などを知るにつれだんだん変わってくる。語りはフラットだ。木村氏は諜報手段としてモンゴル語やチベット語を学ぶうち、モンゴル人、チベット人に寄り添う心情になってゆく、が、やはり基本は日本人、諜報員という宙ぶらりんの状態がどういうものか、伝わってくる。 エピローグとして、帰国後から1989年に亡くなるまでの木村氏のことも書いてある。 1994年発行で、1988年に亡くなった木村氏の追悼文なども載っている。 「船乗り時代の私」氏自身が中学を卒業し、船乗りになり、職安の事務員になり、そして興亜義塾に応募するまでが書いてある。 「夫・木村肥佐生の思い出」チベットを愛する面倒見の良い人だったんだなあ。 「恩師 木村肥佐生先生の思い出」ペマ・ギャルホ 1965年にチベット難民として木村氏などの骨折りで日本にきたが、はじめての正月、今から思えばお節料理を前にして、人をもてなすには熱々の料理を出すチベットと比べて、冷たい料理と姿そのままの魚をみて、残り物だと思った、と書いている。 2023.1.10のクローズアップ現代で「天路の旅人」を上梓した沢木耕太郎が出ていた。見ていると西川一三という人が戦時中軍の密偵として中国西部を行った事績を書いたものだという。西川は旅の記録を書きその本もだしていて、沢木氏は原稿もみせてもらったようだ。検索してみると、戦後戻るのは同じ密偵だった木村肥佐生がインドで出頭してその時西川の名を出したためだったとあった。アマゾンで検索すると、この木村肥佐生「チベット偽装の十年」が出てきた。運よく図書館にあったので読んでみた。 1994.4.25初版 図書館

Posted byブクログ