日本甲胄の実証的研究 の商品レビュー
著者が日本甲冑史上特に注目する甲冑を個別詳細に解説する書。紹介されている甲冑はほぼ著者が自ら手にとって検証していて、各部の詳細な寸法と重量が明記されているのは、他書に無い特色である。ただ、甲冑学術用語が多く、やや古式な文体で、各品を浮張、響穴など細かな要素で解説するが要素毎の解説...
著者が日本甲冑史上特に注目する甲冑を個別詳細に解説する書。紹介されている甲冑はほぼ著者が自ら手にとって検証していて、各部の詳細な寸法と重量が明記されているのは、他書に無い特色である。ただ、甲冑学術用語が多く、やや古式な文体で、各品を浮張、響穴など細かな要素で解説するが要素毎の解説の多くが重複した説明をされており、書全体のまとめが出来ておらず通読に難である。しかるに学術論文的な書かというとそうでもなく、個人的、感想的見解が随所にあり、どちらかと言うとオタク的なマニア本っぽい。これほどの大著にも関わらず参考文献等も付いていないし、文注も間違っている箇所(867)もある。刊行当時の問題なのか参考写真と文章が大きくページを離れており、しかも写真個別の註釈も曖昧で内容のわかりづらさを増す。著者は甲冑研究の権威であるようだが(「甲冑学」という学問分野は無い)、甲冑が大好きなのは伝わってくるし、個々の甲冑の細かな推察が考古学のような知的欲求を刺激してくれる魅力がある。ただやはり読者を念頭に置いていないあまりに独善的な文体と、杜撰な構成は不便である。 変わり兜の中で唐冠形、烏帽子形、頭巾なのでなどの被り物系は、製作年代が古いようだ874 群馬県に「上州明珍発祥の地」という石碑が近年建てられたが、上州の兜名工成国、憲国は明珍派ではない。しかも彼らは明珍派よりも技術が優れている。なのでこの石碑は群馬県人の誇りの喪失以外の何物でもない。ちなみに著者は太田市出身である。773 秀吉が正宗に送った団扇の前立具足(小田原城墜落直後1590年)が、当世具足の形成期の遺例。その製作は天正十年代(1580年代)だろう。1587年の九州征伐で秀吉が着ていたものという説もある。 この具足の兜は熊毛と思われるものでおおわれているが、不審点がある。①これ程古い熊毛なのになめらかである。②熊毛に隠れる眉庇に眉型や目尻皺がつき、裏が朱漆塗りになっている。もしかするとこの毛は後補かもしれない。739 ユス原八幡の金白檀浅葱腹巻きは、大友宗麟のものではなく、本来、豊臣秀吉のために作られたと著者は考える701 戦国時代を題材にした時代劇やイベントで、当世具足を着け、大きな旗指し物を背負い、張掛け兜を被るのは誤り。戦国は胴丸+筋兜である655 櫛引八幡宮の国宝を含む甲冑は昭和15年に盗難された。犯人は骨董屋に持ち込んだが、あまりにも見事な甲冑であるため買取りを拒否された。その後隅田川に捨てた。犯人は逮捕されて隅田川を詮索したが鎧の一部は発見されなかった。国宝に残る鍬形等の黒ずみはこの投棄によるもの282 厳島神社の国宝黒糸威大鎧は明治の補修でドイツの染料で染めた新黒糸(超濃い紺)に大半すげ替えた。現代になりドイツ染料の新糸は退色、薄紫と黒のまだらになった。それが1976年東博で展示された時、女子大生が「ワァ、シャレテルー」と言ったのをとなりで聞いた。そういう見方もあるのかと感心した52 奈良、雑賀と並び上州は兜の名所8
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国宝、重文などの貴重な鎧の細く正確な計測値など記載し普通の図録などでは、到底、見る事の出来ないアングル、部分の写真も多数載せています。しかし解説文が難解で非常に読みづらく上級者向けといえます。真面目に甲冑の研究をしたい方にお勧め
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