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茜色の戦記 の商品レビュー

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2022/04/05

 初出は『新潮』1992年11月号。1941年女学校入学、1945年に戦時特例で4年繰り上げ卒業となった著者の戦争体験記。東京都立第五高女での学生生活、下丸子・北辰電機での勤労動員と、文部省研究補助員に応募し東京工業専門学校(もと東京高等工芸)の写真科で学び、終了後は決戦兵器研究...

 初出は『新潮』1992年11月号。1941年女学校入学、1945年に戦時特例で4年繰り上げ卒業となった著者の戦争体験記。東京都立第五高女での学生生活、下丸子・北辰電機での勤労動員と、文部省研究補助員に応募し東京工業専門学校(もと東京高等工芸)の写真科で学び、終了後は決戦兵器研究に従事する小林理学研究所で勤務した経験など、1941年から日本敗戦までの出来事が淡々とした筆致で綴られていく。福井勝山での父の死や、疎開前まで身を寄せていた目白の叔父の家が1945年4月の空襲で全焼したことなど厳しい出来事は語られるが、どこかエアポケットのような感覚がしてしまうのは、戦時末期の女学生たちにもやはり「S」の文化が残っていたり、研究所の空き時間に一高生からドイツ語や英語を習うシーンがあるからだろうか。  最も印象に残ったのは、著者が北辰電機で作っていたのが、特殊潜航艇用のジャイロコンパスの中身だった、という記述。工場では女学生たちに、あなたの下の名前を刻みなさい、という指示があったという。乗組員たちは、ヒザの間にコンパスを抱きしめながら、暗い海の中を進んで行った。しかし、そのような「文学的」な場面を決して書かないところに、この著者の本領があるのだと思う。

Posted byブクログ