魔犬の復讐 の商品レビュー
2 作者はシャーロキアンとしても有名で著作もいくつかあり、ビリー・ワイルダーの映画のノベライズ『シャーロック・ホームズの優雅な生活』(奥様との共著、M&Mハードウィック名義)をかなり以前に読んだが、小ネタの細かな描写などなかなか面白かった記憶がある。割と良い印象を持っ...
2 作者はシャーロキアンとしても有名で著作もいくつかあり、ビリー・ワイルダーの映画のノベライズ『シャーロック・ホームズの優雅な生活』(奥様との共著、M&Mハードウィック名義)をかなり以前に読んだが、小ネタの細かな描写などなかなか面白かった記憶がある。割と良い印象を持っていた。 本作は題名からしても明らかだが『バスカヴィル家の犬』から着想を得たホームズ・パスティーシュ。「フランシス・カーファクス姫の失踪」事件を手掛けている最中の出来事。ワトスン視点で語られる地の文、正典で扱われた事件を巧みに絡ませ、マニアックな小ネタを全面にまぶし、奇怪な事件を見事に解決するホームズの活躍を描く、と書くと何やらとても面白そう。 しかし実際にはマイルドな訳文と相まって冗長で実に退屈。20世紀初頭の社会情勢を絡めつつ、引退間際の枯れつつあったホームズを描きたかったようだが、上手くいっているとは言いがたい。いくつも起こる事件の謎の見せ方の吸引力が弱く、それら事件が解決に向けて一つに収束していく筋立ても強引で、その必然性もあまり感じられない。何しろ当のホームズ本人が理由は言及されているとはいえなかなか事件にノッて来ない。その理由というのも説得力貧弱でどうも腑に落ちない。正典では、何はともあれホームズだけは些細な出来事に興味を抱く描写が定番であり、読み手にはとっては、何故ホームズが関心を持ったのかというのもまた一つの謎でそれが読みどころの一つでもある。これを流用しないパスティーシュはニヤリ要素を一つ放棄しているのと同義である。ワトスンの語りもどこからしくないところもあり妙に引っかかるが、これは訳文の口調のせいも多少はあるかもしれない。ホームズとワトスンの掛け合いもセリフが逆なのではと思えるところも散見され、探偵小説としても、キャラクター小説としても、ホームズ・パスティーシュとしても、何ともバランスを欠いている感がある。何より最後のオチが出来の悪い二次創作の印象を強くする。 数多あるパロディ、パスティーシュではワトスンを小馬鹿に描いているものが多くあるが、本作はそうでないところは良い。むしろ大活躍だ。ただし個人的には“ワトスン結婚3回説”より“2回説”支持なので、それら関連キャラクターが登場するとなんだかモヤモヤする。
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