素顔のモーツァルト の商品レビュー
かなり古い本なので、今更読む価値があるか疑問だったが面白く読めた。 文庫本(中公文庫)の発行は1988年だが、元の単行本(音楽之友社)の発行は1979年である。さらにこの文章は、1971年から1975年「レコード芸術」に連載されていたもである。つまり、今(2024年)から半世紀...
かなり古い本なので、今更読む価値があるか疑問だったが面白く読めた。 文庫本(中公文庫)の発行は1988年だが、元の単行本(音楽之友社)の発行は1979年である。さらにこの文章は、1971年から1975年「レコード芸術」に連載されていたもである。つまり、今(2024年)から半世紀も前に書かれたものなのだ。 一般的に新しい本ほど、アラン・タイソンやヴォルフガング・プラート等の研究者による最新の研究結果が反映されており、より正確な情報、つまり、より正しいモーツァルトの姿を描ける様になるはずだ。 モーツァルトの本は、1991年のモーツァルト・イヤー以降に発行された本を何十冊も読んできたこともあり、50年も前の文章を今更読むこともあるまいと思っていたのだが、著者の石井宏氏は文章が上手く読ませるので、今回、読んでみることにしたものだ。 本書は、神童であった子供時代から始まるのではなく、1777年の母との就職旅行から、死の1791年までを、主としてモーツァルトの手紙を紹介し、そこに解説を付けるという形式で素顔のモーツァルトを描いている。一般的なモーツァルトの評伝は、解説の裏付けとして手紙を引用することが多いが、本書では手紙の方が主となっている。 本書で初めて知ったこともあった。例えば、父レオポルトの晩年の2年間は、娘ナンネルの生まれたばかりの子供レオポルト(父と同名)を預かり、孫と2人で暮らしていたことだ。普通はモーツァルト自身に直接関係ないことは省かれるものが、なんにせよ、初めて知るというのは面白いものだ。 また、「老いゆく身に安堵感と解放感はときに禁物である。息子の成功に命を賭けてきた人生であっただけに、その息子が成功したのを見てなんとなく自分の人生が終わったような気がしなかっただろうか」というような著者の考察は、なるほどそういうこともあるだろうと納得させるものがある。 モーツァルトのファンなら今から読んでも面白く読めるだろう。
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