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不死身のナイティ の商品レビュー

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2011/07/07

文化人類学者、吉田集而による、ニューギニア食人民族についての「民族誌」(P230)。  ニューギニアには食人を習俗として持つ民族があった。古くは1940年代にイェンゼンがマリンド・アニム族に食人と祭祀についての採話を行っている。(『殺された女神』) 次いで1960年代に西丸震哉...

文化人類学者、吉田集而による、ニューギニア食人民族についての「民族誌」(P230)。  ニューギニアには食人を習俗として持つ民族があった。古くは1940年代にイェンゼンがマリンド・アニム族に食人と祭祀についての採話を行っている。(『殺された女神』) 次いで1960年代に西丸震哉氏がビアミ族という食人族と接触している。(『さらば文明人』) 本書は1980年代に吉田氏が接触したイワム族の生活―殺人・食人も含む―を記したものである。 著者はまえがきにてこう云う。   これまで私は、文化人類学の中で、時間や空間、植物、病気などの認識といった、人間臭さの少ないトピックを主にあつかってきた。その中では、人々とともに興奮したことや想い悩んだこと共感したことなどは全て捨てて書いてきた。しかし今、私は、何か大切なものをいつも捨ててきたような気がしてならない。アカデミックな論文でなくていい、もっと人間臭いものを書いてみたいという欲求がどんどん強くなっていた。 そして「あとがき」にてこう補足する。   この本は奇妙な形ではあるが、私のイワム文化についての民族誌の一部である。その肉の部分として、そのつもりで書いた。しかし、この文化の骨にあたる部分を書いていない。肉と骨で一セットと考えている。骨は日々みられる現象、あるいは個人の活動をささえている、より硬い部分をいう。ここに書いた中には骨につながる部分もある。しかし、それはなお中間報告的なものである。  本書P61から展開するイワム族における食人俗の有無については、今少し鑑みてからどこかに纏めてみたいと思っている。したがって、吉田氏は彼らが食人を行っていたかどうかに疑問を挟んでおられることだけ記しておきたい。(もちろんこの吉田氏の見解に対する反論もある。『パプアニューギニア断章』庄野護著。)  本書はまず、イワム族が置かれている環境や他の部族との戦いの叙述を通じて「イワム族とはどんな人たちか」を説いてゆく。白人たちが彼らの生活に関与するまで、実に数千年に渡って連綿と続けられた生活の実態である。  西丸氏『さらば文明人』と読み比べてみるとわかるが、吉田氏が取材したイワム族は食料も豊かで、呪術や先祖信仰も持っており、ビアミ族よりも物質的にも精神的にも豊かであるという印象を受ける。そしてその分残酷でもある。  西丸氏は、ビアミ族は他部族間の戦いにおいて、皆殺しのようなことはしないで男を一人だけ殺し、それを持ち帰ってみんなで食べるという。  ところがイワム族は衝突した他部族を捉えられるだけ捉えて殺し、全員を食べてしまう。逃げたものは追いかけないが、いずれマラリアなどで死ぬというから、結局襲われた他部族は全滅してしまうのだ。ビアミ族もイワム族も、殺人と食人においてイェンゼンが紹介する祭祀との関わりは少しもない。彼らは殺した人の肉を、まさしくただの肉として扱っている。その点では中国の食人と類似している。  となると、ニューギニアには宗教と祭祀のための殺人・食人―いわば計画的殺人・食人―と、偶発的に行われる殺人(部族間の争いや恨みによる殺人も含む)と食人という二重構造があると言えようか。  それからナイティ、ネノという二人の男の人生から、彼らの生活のあらましを浮き彫りにする。  そして最後はかつて英雄といわれた戦士ナウニの老いと凋落、そして自殺へといたる話で締めくくられる。  長く部族間で戦い、殺し、人を食べ続けてきた人々の社会にある日突然文明が入ってくる。圧倒的な物質的豊かさで彼らを支配し、新しいルールを押しつけてくる。殺人を、食人も禁止する。もしも西洋人ではなく、それが日本人であっても同じことをするだろう。  戦いを取り上げられた戦士たちはあまりに憐れだ。若い者たちは新しい価値観に添って行動する。老いた者たちは取り残される。かつての英雄も、いまはただの老人である。果たして、イワム族に敬老という観念はあるのだろうか。  文明の発達という階段を自分で登らないで、一気にエレベーターで上階に引き上げられたニュージーランド現地人たちの未来は明るいだろうか。白人のようにふるまえば、白人のような豊かな暮らしが自動的に手に入ると思っている現地人宣教師の話(P73-75)が心に重い。

Posted byブクログ