シベリウスの生涯 の商品レビュー
シベリウスの伝記はエリック・タヴァッシェルナ Erik Tawaststjerna による大部の著作が標準かつ決定版のようである。これはスウェーデン語で書かれ、いまひとつ書誌学的情報がはっきりしないが、1967年から88年にかけてフィンランド語訳で5巻で上梓された。オリジナルの...
シベリウスの伝記はエリック・タヴァッシェルナ Erik Tawaststjerna による大部の著作が標準かつ決定版のようである。これはスウェーデン語で書かれ、いまひとつ書誌学的情報がはっきりしないが、1967年から88年にかけてフィンランド語訳で5巻で上梓された。オリジナルのスウェーデン語版と英訳は3巻本である。そのほか独露訳もあるらしい。 日本はドイツやロシアなどと比べても、シベリウスの愛好者の多い国ではないかと思われるのだが、タヴァッシェルナの『シベリウス』は2000頁近い大作であるために日本での出版は望むべくもないようである、と本書のまえがきに、いまや脳梗塞から生還した左手のピアニストとして有名な舘野泉が書いている。もっとも英訳では1000頁くらい。そこで、はるかに簡素な本書が訳されることとなったようだが、それももはや絶版というのが現況。翻訳者は『フィンランド語は猫の言葉』(私は講談社文庫で読んだが)でフィンランド留学体験をおもしろおかしく開示してくれた稲垣美晴。 立派なハードカヴァーだが、紙が厚く、160頁ほどしかない。しかし、80頁そこそこの(ただし詳細な作品リストが付いている)『シベリウス 写真でたどる生涯』よりは記述は濃い。一筋縄でいかない性格の描写もよくなされている。ヴァイオリニストを断念したのはあがり症のため。でも、自作の指揮は評価が高かった。結構いつもお金に困っているのに、おしゃれしてパリからシャツを取り寄せたり、お客用にいい酒を用意しておいたり。 そうしたよくも悪くも、ある種の無垢さが、自然に溶け込んでしまうような作品の質とどこかで関連しているのであろうと思いつつ、また、第8交響曲を書くことができず、あるいは発表することができず、晩年30年を過ごしたことともその無垢さがかかわっているのであろうと推察される。晩年の沈黙は20世紀音楽史の謎だが、世界の期待に応えようという重圧と、年を取るだに強まる自己批判といったところが真相のように思われる。有名な楽譜制作ソフトの名称が「シベリウス」なのは、何だかもの凄く意味深、というかソフト制作者の嫌がらせではないか、というくらいだ。 さて、2000年の『シベリウス 写真でたどる生涯』も絶版だし、そろそろみすず書房あたりが、タヴァッシェルナの『シベリウス』を出してくれてもいいのではないか(その場合、とても高そうだが)。
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本当に「生涯」に絞って細かく書いてあります。 年表はちょっと貧弱かな… 写真いっぱい。奥さん美人。
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