恋ほおずき 完全版 中公文庫

諸田玲子(著者)

• 販売会社／発売会社: 中央公論新社
• 発売年月日: 2021/12/22
• JAN: 9784122071582

商品レビュー

2024/04/04

禁忌である「子堕ろし」を生業とする「女先生」と
取り締まる側の同心とのかなうはずもない恋

「ほおずき」は根っこを煎じて堕胎に使うらしい

人情ものとしてはかなり切ない

2022/10/11

2003年の同名の単行本、2006年の文庫の４章に、書き下ろしの１章を加えたもの。

現代でも重い妊娠中絶を正面から扱った時代小説で、あさのあつこの”闇医者おゑん”シリーズと同じ葛藤が描かれる。

元藩医で町医者の六左衛門の娘である江与は裏口に「中條流」ののれんを掛けて、中絶が必要な女たちを助けていた。
時は天保の改革の風紀引き締めで、岡場所の廃止、女髪結や三味線の師匠などの禁止に続き、女医者（婦人科）の禁止が検討されていた。
事件はたくさん起きる。禁止されている奉公人同士の恋愛で妊娠した女中が相談に来たが、首をつってしまう。役者に熱を上げた奥女中が相談に来て、江与はもてあそんだ役者を懲らしめる。遊女が間夫に会うために江与には妊娠を告げず出産のために郭外へ行き心中死する。連続嬰児誘拐事件の犯人は貧困のために中絶した女で、江与と妹が子供を救う。夫の出世のために有力者に身を任せた武家の妻が妊娠し、江与が相手に妊娠を告げるべきだと諭して返したものの相手に殺されたらしく、夫は真相を知って果たし合いをするが、返り討ちに遭い相手も抹殺される。このとき江与は惹かれ合う同心の津田清次郎と立ち会い、その夜結ばれるのだが、津田には妻子が居る。
江与は17歳の時に旗本の三男と恋をして妊娠するが、旗本の家から遣わされた医者によって中絶させられ、子供が産めない体にされた過去があり、女性を守るために女医者になっていた。最後の事件はそれを明らかにするために後から付け加えられたもので、長崎遊学中に死んだ恋人の友人の犯罪は本筋の中絶問題とは外れている。
脇役である岡っ引きの梅蔵と貧困からかっぱらいの問題児だった平吉が、いい味を出す役どころだ。

2022/02/11

ひっそりと中條流（堕胎医）ののれんを掲げた女医者、江与は、幕府の取り締まりが次第に厳しくなるなか、さまざまな事情を抱えて駆け込んでくる女たちを見捨てるわけにはいかないとの使命感から治療を続けていた。そんなときに出会った清之助は皮肉にも女医者を取り締まる同心だった‥。
江戸市中で起こる事件を通して少しずつ絆を深めていく2人。しかし悲しい過去を持つ江与は元来の生真面目さも手伝って決して距離を縮めようとはしない。もどかしさでムズムズするうえに、気になることがいくつも残ったまま書き下ろしの最終章までも終わってしまった。続編はなさそうだし、少々残念。