野獣の美学殺人事件

瀬川久志(著者)

• 販売会社／発売会社: 文芸社
• 発売年月日: 2011/05/01
• JAN: 9784286102535

商品レビュー

2011/12/28

「野獣の美学殺人事件」
夏光一郎シリーズ。登場人物は主人公夏を始め蜜柑（娘）、エミリー（占い師）、秋野、仁科（探偵）、刑事達(大岡、吉永、田丸etc)です。どうやらこの「野獣の美学殺人事件」は続編のようで、エミリーは一人で名古屋から出てきたということになっています。どうやらこの人は夏に危険がせまるから自分が守るということらしい。これは前作を読まないといけんですねｗ

物語は大学教授の土門が殺害されたことから全てが始まります。凶器は熊手、現場付近では犬の遠吠えに似た声、これが第1の事件。そして夏がこの事件を解決する前に第2の事件、第3の事件が発生する。事件は悲惨さを増し、残忍さも増していき・・・。

私は瀬川氏の作品を初めて読みました。感想としては思っていた以上に面白かったです。特に2点が良かったです。まずひとつは「事件を解決するまでの展開」。第1の事件から夏達警察は捜査を開始するのですが、次々に猟奇的殺人が続きます。しかし夏達は決定的証拠や犯人の手がかりをつかめず、事件の真相がなかなか見えてこない。この展開の遅さは警察の現実さを感じさせます。また地道な足を中心とした聞き込み捜査（蜜柑の探偵捜査との連携もあり）が進み、証拠が出るまで繰り返して事件の真相をじわじわ見つけ出すところも現実的で良いです。

もうひとつは「犯人の狂気性と美学」です。人間は理性的存在として地球の頂点に立っている。この理性を取り除き限りなく獣になった人物が今回の犯人です。まさしく狂気に満ちた獣そのもので犯行も凄まじい残忍さ。この強烈な特性が事件をより複雑に且つ深くしています。そして美学を描いていることは犯人をただの猟奇的犯人で終わらせていない効果があると感じました。

犯人の残忍な獣性とそれに反しそうな美学が合わさっている「野獣の美学殺人事件」は面白いですよ！